特集 循環器疾患を有する患者の妊娠・出産
識る 妊娠・分娩時の血行動態を含む母体の変化を識る
小澤 綾佳
1
,
市田 蕗子
1富山大学 医学部小児科
キーワード:
血液循環
,
呼吸
,
腎循環
,
血行力学
Keyword:
Blood Circulation
,
Hemodynamics
,
Respiration
,
Renal Circulation
pp.350-354
発行日 2017年4月9日
Published Date 2017/4/9
DOI https://doi.org/10.18885/J03097.2017201286
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妊娠に伴い,母体の循環動態は大きく変動する。心拍出量と循環血液量の増加は,妊娠初期から中期にかけて認められ,32週前後には非妊時の1.5倍となり,その後正期までほぼ一定か,ゆるやかに増加する。母体は胎盤を通じて,急速に成長する胎児に必要な血液を供給し,同時に自分の生命維持も行い,さらに分娩時の出血にも備えなければならないのであるから,これは合目的な生理的変化である。同様に,胎児は胎内では呼吸器系,消化器系,腎・泌尿器系の機能を胎盤に依存しており,非妊時より母体の負担が増えるのは必然で,循環動態の変化のみならず,血液学的,呼吸機能的,泌尿器学的,自律神経学的な変化をきたすのも必要な適応である。循環動態の変化のみをみても,妊娠中は循環血液量が増加し,末梢血管抵抗は低下する。そして1回拍出量と心拍数は増加する。血圧は妊娠中期にかけて低下するが,後期には上昇する。分娩中は心拍出量はさらに増加し,分娩直後には下大静脈の圧迫が解除され静脈還流量が急激に増加する。妊娠中に増大した循環血漿量のため,分娩後は容量負荷の状態となる。出産後心拍出量は速やかに低下するが,非妊時の状態まで戻るには数ヵ月必要である。この妊娠出産,産褥期の循環の大きな変動に,心疾患をもつ女性が適応できるか否か,事前に予測し最も適切な管理を行う必要がある。そのためにはまず,妊娠分娩によって起こる生理学的変化を理解することが肝要である。
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