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は じ め に
わが国の65歳以上人口は,2024年現在,3,625万人と過去最多となり,総人口に占める割合も29.3%と過去最高となった1).超高齢社会は医療・介護費の増加にもつながり,社会的問題となっている.高齢者では,加齢に伴う運動器の障害を生じることが多く,2007年に日本整形外科学会は “運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態” を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と名付け,この問題に取り組んでいる2).ロコモが進行するとフレイルや要介護状態となるため,ロコモの認知度向上とロコモの予防が課題となっている.
この課題を解決するためにはロコモ度を簡便に測定する革新的なアプローチとして,近年,AI(artificial intelligence)やアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)が注目されている.AIは,近年多くの分野で注目を集めており,医療分野においてもその応用が急速にすすんでいる.AIの概念は1950年にイギリスの数学者Alan Turingが提唱した3).1956年のダートマス会議では,米国の計算機科学者John McCarthyらにより「artificial intelligence」という言葉がはじめて使用された4).当初はチェス,迷路,パズルの解法などルールベースの手法から始まり,1980年代にはエキスパートシステムと呼ばれる,特定分野の専門知識をプログラムに組み込むことで,限定的なタスクを人間と同等に解決することをめざしたものなどが考案されたが5),計算資源の制約や理論的な限界によりAI研究は停滞が長く続いた.1990年代以降,インターネットの発展に伴いデータ流通量が爆発的に増加した.それによりAIは再び注目され,中でも機械学習と呼ばれるコンピュータが大量のデータ学習を通して規則性を見つけ出す技術が台頭するようになった.2000年代には機械学習の中でもとりわけ深層学習(deep learning)と呼ばれる手法が発展し6),多層構造の関数設計によりデータの特徴抽出能力が格段に向上した.これにより,画像,時系列データ,自然言語処理など従来のAIで取り扱いが困難であった課題が次々と克服された.現在,医療分野におけるAI活用としては,放射線画像や病理画像などに対する診断支援システムが多い7).一方で,リハビリテーション医学・医療分野におけるAIの活用はほかの医療領域に比べていまだ発展途上であり,特に姿勢や動作の解析における実用化は限定的である.
そこで,高齢者を観察するだけでモビリティヘルスを簡単にチェックできるAI動作解析アプリを開発することを着想し,日本と米国に拠点をおくソフトウェア会社(Senior Life Technologies社)と共同で,SeniorLife®というアプリを開発した(図1).本稿では,このロコモAI動作解析アプリの機能を紹介し,従来のロコモ度測定法と比較して,有用性と課題,今後の展開について考察する.

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