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は じ め に
1.その1:わたくし学問の表現
私たちは,事実を述べ,さらに論理的考察を加えて論文などのかたちで成果を発表します.その方法に客観性,実証性,再現性,さらには新規性などが担保されていれば多くの人に共有され,次の世代へと受け渡されます.その一方において,論文のような制度には載せがたいけれども確かに価値があると実感できる経験が,研究や臨床における地道な作業や失敗の中にあることも事実です.筆者らは,そういった論文化のむずかしい価値をも学問の枠内にとらえる可能性を考えて,それに「わたくし学問」という名前をつけて,さまざまな分野の研究者や芸術家たちとの交流を行っています1).本稿では,筆者が経験しました「ビタミンE添加ポリエチレン開発」などを例として,制度化された学術研究の中で世に送り出す成果からはとりこぼされてきた価値を,いわゆる「秘話」として表現してみたいと思います.その表現にあたっては,論文調の「である」ではなく,「です・ます」調での表記を編集部にお許しいただきました.
2.その2:ビタミンE含有ポリエチレン
本文にも述べますように,筆者らは人工膝関節用ポリエチレンにみられる酸化疲労破壊(デラミネーション破壊)を抑制するために,ビタミンE含有ポリエチレンを開発しました.その開発過程において,ビタミンEによる酸化の抑制や摩耗粉の生体反応性の抑制などを発表してきたため,欧米においてもさまざまなビタミンEポリエチレンが考案されました.しかし,本材料の設計コンセプトは「ビタミンEが酸化防止効果のある滑材の役割をはたすことによって,超高分子量ポリエチレン粉体の成形を改善する」ことです.本材料は世界に先駆けて日本(千葉大学医学部附属病院など)で治験が行われたのですが,そのコンセプトや開発者らの意気なども,「わたくし学問」の表現として記述してみたいと思います.

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