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は じ め に
本邦における慢性腰痛や慢性関節痛といった運動器慢性疼痛の有訴者率は15.4%と報告されており,今やcommon diseaseとなっている.そのような運動器慢性疼痛に対するリハビリテーションは,有害事象の少ない非薬物療法として各国の慢性疼痛診療ガイドラインやシステマティックレビューで強く推奨されている.慢性疼痛に対するリハビリテーションには,有酸素運動や筋力増強トレーニングといった一般的な運動療法のほか,モーターコントロールエクササイズやマインド・ボディエクササイズといった特殊な運動療法,患者教育,認知行動療法,作業療法,ニューロリハビリテーション,物理療法,徒手療法など多種多様な介入方法が含まれる.そのなかでも特に運動療法や患者教育は,運動器慢性疼痛の治療アルゴリズムにおいて第一選択治療に位置づけられており,薬物療法や手術的治療に先立ってすべての患者に対して実施することが推奨されている.本邦でも2021年に『慢性疼痛診療ガイドライン』が発刊され,運動療法単独や運動療法に患者教育や認知行動療法を併用した介入が強く推奨されている(表1)1).運動は身体機能や精神心理状態,生活の質(quality of life)を改善するだけでなく,近年では運動による鎮痛効果,いわゆるexercise-induced hypoalgesia(EIH)が注目されている.EIHは運動中・後の自覚的疼痛強度の減弱または痛覚閾値や耐性値の上昇を特徴とし,運動部だけでなく全身性に鎮痛効果が得られ,患者が心地よいと感じる程度の低強度の運動であってもその効果が期待できる.本稿では運動器慢性疼痛に対するリハビリテーションのなかでも,EIHをもたらす運動療法の実際と課題・展望について概説する.
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