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はじめに:この領域のトピックス
神経ブロックは,痛み治療のなかで重要な役割を担っている.近年,超音波を利用した診療が広く普及し,骨・軟部組織の異常の詳細な評価や,超音波ガイド下でピンポイントに薬液の投与ができるようになり,運動器領域の診療の質が著しく向上している.特に急性痛に対しては,適切な神経ブロック治療によってすみやかに症状の緩和が得られることも多い.一方,痛みが慢性化した患者に対しては,局所麻酔薬や副腎皮質ホルモンなどの局所投与では効果が限定的で,十分な疼痛緩和が得られない場合がある.
ペインクリニック科が得意とするインターベンショナル治療として,高周波熱凝固法やパルス高周波法があげられる.高周波熱凝固法とパルス高周波法は,先端の数mm以外は絶縁した専用のブロック針(図1)と高周波熱凝固装置(図2)を利用する点で類似しているが,治療原理や効果は大きく異なる(表1).高周波熱凝固法は,痛みの原因となる神経を熱凝固して神経伝達を遮断する神経破壊術の一つである.針先端の絶縁部分を70~90℃になるように温度設定して1~3分程度高周波電流を流し,組織に数mm程度の熱凝固巣を形成する.高周波熱凝固法によって疼痛緩和を期待できる期間は,おおよそ半年から数年程度と考えられている.無水エタノールやフェノールなどを使用した神経破壊術と比較して,薬液の予期しない広がりのために生じる重篤な合併症や,広範な組織変性がそれ以降のブロックでの薬液の広がりの制限を生じにくい点が強みである.また,液体は高周波によって熱を生じにくいため,血管損傷の可能性も低いと考えられている.神経破壊薬と比べると,熱凝固による組織変性の範囲が限局されるため,十分な効果が得られない可能性は残るが,潜在的な合併症のリスクが低いため,広く適応しやすいという強みがある.一方で,パルス高周波法は,局所の温度上昇やそれに伴う神経障害を回避するために,高周波電流を持続的にではなく間欠的(パルス状)に流す方法で,もともとは熱凝固法の変法の一つとして開発された(図3).しかし,生体に与える影響は熱凝固とは大きく異なり,疼痛緩和を促進しうるさまざまな作用を有することが明らかになりつつある.具体的には,パルス高周波が形成する電場が神経細胞に微細な損傷をきたしてシグナル伝達を抑制すること1),細胞膜のイオンチャネルの発現量や神経伝達物質の発現量を制御して神経活動を抑制したり,痛みに関連する炎症性サイトカインの産生を制御すること2),アドレナリンやセロトニン作動性の下行性抑制系経路を賦活化すること3)などが次第に明らかにされている.つまり,「軽めの神経破壊術」ではなく,間欠的な高周波電流が形成する強い磁場がさまざまな分子機序で疼痛緩和に寄与すると考えられている.また,もともとは神経細胞体を標的とした治療であったが,神経の末梢枝を標的とした場合にも疼痛緩和が得られることがわかってきた.そのため,X線透視装置を使用して行うような深部の脊髄神経の後根神経節や三叉神経節だけでなく,超音波ガイド下で神経ブロックを施行するような末梢神経にも応用できると期待される.超音波ガイド下末梢神経ブロックが急速に普及している昨今では,運動器疼痛の治療に幅広く応用できる可能性を秘めており,今後の発展が期待できる.
パルス高周波法は,高周波熱凝固法と比較して効果の持続時間が短いという問題や,その有効性を検証する質の高い臨床研究が少ないといった問題が指摘されているものの,不可逆的な組織変性を起こすことがないため合併症発症のリスクがきわめて低く,また,運動神経を含む神経根などにも適応が可能であるという非常に大きな強みがある.現時点で,エビデンスレベルは必ずしも高くなく,ガイドライン上の推奨レベルも熱凝固法と比して若干見劣りするが,安全性が高いことや,神経ブロックと比してより長期的に強い効果を実感する.当科では,神経ブロックにより診断的・治療的に一定以上の効果が確認できた患者に対しては,パルス高周波法を積極的に適応している.以下では,その例について先進的な治療法も含めて紹介する.
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