書評
甲状腺ホルモン不応症診療の手引き
橋本 貢士
1
1獨協医科大学埼玉医療センター 副院長/糖尿病内分泌・血液内科 主任教授
pp.247-247
発行日 2023年8月1日
Published Date 2023/8/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_naika132_247
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- 文献概要
甲状腺ホルモン不応症(resistance to thyroid hormone:RTH)は,一般的に甲状腺自体は正常に機能しているが,甲状腺ホルモンに対する標的組織の反応性が低下した病態であり,主として常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる.1967年にChicago大学のSamuel Refetoff博士が初めて報告し,Refetoff症候群ともよばれている.現在までに約600家系が報告されており,発症は約4万出生に1例と推定されている.甲状腺ホルモン受容体は核内受容体であり,αとβのアイソフォームをもつが,RTHではほとんどの場合にTRβの遺伝子異常を認める.RTHは,ヘテロ接合体でもRTHの症状を認める「ドミナントネガティブ効果」を呈し,代表的な核内受容体疾患でもある.視床下部-下垂体-甲状腺系のネガティブフィードバックが障害されているため,甲状腺ホルモン値(FT3,FT4値)が高値であるのにTSHが下がらない「不適切TSH分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of thyroid-stimulating hormone:SITSH)」の存在がRTHの診断には必須である.このようにRTHを概説すると,医家諸氏はきわめてまれな疾患(希少疾患)と感じられるかもしれないが,甲状腺診療に携わる医師にとってSITSHを疑う検査所見には日常診療でよく遭遇するため,RTHは鑑別すべき疾患としてきわめてポピュラーといえる.
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