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どんな薬?
がん薬物療法の領域でよく耳にするRASとは,細胞の増殖などにかかわるタンパク質のことです.
RASタンパク質には,KRAS, NRAS, HRASの3種類があり,がん患者の約30%にRAS遺伝子の変異が発生しているといわれています.RASタンパク質をつくりだすRAS遺伝子に変異が起こると,異型のRASタンパク質がつくられ,細胞増殖を促進するシグナルを出しつづけることでがんが発生しやすくなると考えられています.RAS遺伝子の変異は,膵臓がんや大腸がん,皮膚がん,肺がんなど,さまざまながん種で発現していることがわかっています.
RAS遺伝子変異のなかではKRAS遺伝子変異がもっとも多く,膵臓がん(77%),大腸がん(43%),非小細胞肺がん(27%)で高頻度で出現しています.KRAS遺伝子はがん遺伝子の一つで,KRASタンパク質をつくります.上流の細胞膜受容体型チロシンキナーゼである上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)とリガンドである上皮成長因子(epidermal growth factor:EGF)が結合すると,下流にある細胞内のKRASタンパク質が活性化し,細胞を増殖させるシグナルが伝達され細胞が増殖します.KRASタンパク質は活性型(GTPと結合)と不活性型(GDPと結合)とでオンとオフに切り替え,細胞分化や増殖を調節しています.しかし,KRAS遺伝子に変異が生じると,EGFとEGFRが結合していなくても,細胞増殖シグナルが出されつづけ,がん細胞の増殖が活性化されつづけます.KRAS遺伝子変異は,喫煙者で発現頻度が高く,男性で出現頻度が高い傾向にあります.人種差は,明らかになっていません.また,KRAS遺伝子変異は予後不良因子とする数々の報告があります.
ソトラシブは,初のRASタンパク阻害薬で,KRASタンパク質の12番目にあるアミノ酸のグリシン(G)からシステイン(C)に変異(一塩基多型)したKRAS G12Cが標的の薬です.KRAS遺伝子変異はG12Cがもっとも多く発現していますが,これ以外にもG12DやG12V, G12Aなども報告されています.ソトラシブはKRAS G12Cに特異的に作用するため,それ以外のKRAS変異への効果は期待できません.
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