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は じ め に
手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)に伴う知覚障害は,電気生理学的検査,Semmes-Weinstein(SW)モノフィラメントテスト,二点識別(TPD),およびvibrationテストなどの検査や補助診断により評価されている1~4).しかし,これらの検査法は,検者や被験者の主観的要素や体温や皮膚の厚みによって影響を受ける.CTSの知覚障害には,しびれ感,痛み,知覚鈍麻・過敏,およびちくちく感(tingling)などがあるが,触覚,温覚,痛覚などの各知覚を同時に評価できる有用な検査方法はほとんどない.臨床的に重度のCTSは,術後も知覚障害が残存する傾向があるにもかかわらず,術前に神経知覚活動電位(SNAP)が導出されないことも多いため,知覚異常を定量化できない5,6).そのため,SNAP導出不能の重度CTSに対する術後の知覚回復について定量的に評価した報告はない.
一方,current perception threshold(CPT)テストは,経皮的に特定の周波数で電気刺激し,感覚を得るのに必要な最小の電流値を測定できる知覚の閾値検査である.CPTテストにより,知覚鈍麻や知覚過敏の状態を数値化できるため,糖尿病性末梢神経障害,帯状疱疹後神経痛,およびCTSのような絞扼性神経障害に対する知覚評価に臨床応用されている7,8).Neurometer CPT/C(Neurotron社)は,CPT値を測定することができるCPTテスト装置の一つで,知覚を定量化して評価できる9).検査したい部位に専用のディスポーザブルの電極を設置し,2,000Hz,250Hz,および5Hzの異なる三つの周波数で電気刺激を行う.周波数の異なる正弦波を用いた刺激により同一神経束内の異なる径の知覚神経線維を選択的に刺激することができるため,触覚,温覚,痛覚を定量化することが可能である(表1).Neurometer CPT/Cは,被験者が電流刺激を感知し,正解すると刺激が小さくなり,次のステップへすすむ強制的な二重盲検機能を有する.このためNeurometer CPT/Cを用いたCPTテストは,客観的な知覚評価を可能にする.CPTテストは直接知覚神経を興奮させ,感覚受容器に作用しないために皮膚の厚みや体温,組織の浮腫に影響されることがなく,高い再現性をもつ.CPTテストは,神経伝導検査で検出が不可能な小径有髄線維や無髄線維の障害を検出することも可能である.
本研究では,SNAP導出不能な重度CTS患者の鏡視下手根管開放術後における知覚の回復過程をNeurometer CPT/Cを用いて経時的に解析し,CPTの有用性について提示する.
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