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HDL-C値の低下は、冠動脈疾患の独立した危険因子であり、HDLは動脈硬化防御作用を有するリポ蛋白と考えられる。血管壁に蓄積した過剰なコレステロールはHDLやアポ蛋白A-Iによって引き抜かれ、HDL中へ組み込まれる。さらに、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)によって、HDL中のコレステロールエステルはVLDL、IDL、LDLなどのリポ蛋白へ転送される。高HDL-C血症はHDL代謝に関与する酵素や蛋白の異常等により起こる症候群である。原発性(遺伝性)のものとしては、CETP欠損症、肝性リパーゼ欠損症、二次性高HDL-C血症としては、原発性胆汁性肝硬変に合併する高HDL-C血症などがある。CETP欠損症はわが国の高HDL-C血症の原因の大部分を占め、ホモ接合体のHDL-Cは著増し、患者HDLはコレステロールエステルに富み大粒子化している。CETP欠損症の診断にはCETP活性、蛋白量を定量する。CETP欠損症の遺伝子異常はイントロン14のスプライスドナーサイトのG→A変異とエクソン15のミスセンス点変異(D442:G)が大部分を占める。CETP欠損症による高HDL-C血症では動脈硬化合併例も認められ、ハワイ在住の日系米人の調査で冠動脈疾患患者においてCETP欠損症の頻度が高いとの報告もある。最近、CETP阻害薬torcetrapibを用いた臨床試験の結果が発表されたが、いずれもCETP阻害薬によるHDL-C上昇、LDL-C低下は認められるものの、死亡率増加で開発中止となっており、動脈硬化の抑制も認められていない。これに対して、HDLの合成亢進による高HDL-C血症では動脈硬化の発症が少ないと考えられる。したがって、高HDL-C血症の患者を診た場合は成因を検索し、CETP欠損症を疑う場合は動脈硬化性疾患の有無を検索する。薬物療法に関して一定の見解はないが、動脈硬化を合併する場合には他の危険因子の軽減に努める。
©Nankodo Co., Ltd., 2009