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感染症は他の疾患と異なり、病気を発症する原因微生物が存在する。原因微生物にはウイルス、細菌、真菌、寄生虫など、さまざまな生物が存在する。また、これらの原因微生物は生き物であるため常に遺伝子変異を起こし、変化することも感染症の大きな特徴の一つである。さらに感染症は医学的な問題ばかりでなく、ときには社会的あるいは経済的に大きな衝撃を与えることもある。ウイルス感染症に関しては、2002年に問題となったSARS(重症急性呼吸器症候群)はいまだ記憶に新しいところである。その後、SARSは終息したが、2004年初頭から東南アジアを中心に高病原性鳥インフルエンザの患者が発生し、こちらはいまだに終息の気配はなく、むしろ患者数は年々増加傾向を示している。今後は高病原性鳥インフルエンザがヒトへの感染性を有する変異を起こし、いわゆる新型インフルエンザが出現し、人類に再びインフルエンザのパンデミックを起こすことが懸念されている。HIV感染症もウイルス感染症として重要であり、その治療法は進歩し、現在の治療の主流は多剤併用療法(HAART:highly active antiretroviral therapy)の1日1回投与である。細菌感染症は、院内感染などの原因微生物としての薬剤耐性菌が問題となる。MRSAはすでに院内のみならず、広く一般生活を営む健常者の感染症の原因となり、薬剤耐性緑膿菌は有効な抗菌薬がなく、わが国の院内感染症の原因菌としてきわめて重要である。このような薬剤耐性菌の新たな治療薬も期待されている。その他、深在性真菌症の治療に用いる抗真菌薬が近年次々に開発され、今後は新たな薬剤の位置づけや、より有効な治療法の開発が期待されている。
©Nankodo Co., Ltd., 2006