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「癌幹細胞のin vivo アッセイ」と聞いてピンと来る方は少ないのではないだろうか.癌幹細胞モデルの研究は非常に盛んになり,様々な癌で癌幹細胞が同定されているが,じつはその同定方法というのは,まだまだ発展途上なのだ.癌幹細胞とは癌の根源となっている細胞で,癌幹細胞が無限増殖と限定された細胞系列へ分化して,癌組織を構成していると考えられている.さて,癌から分離した細胞がここにあるとする.しかし,目の前にある細胞がはたして癌“幹”細胞なのか,ただの癌細胞なのかは形態や表面抗原だけではわからない.その細胞が癌幹細胞であるのかどうかは,invivo アッセイや異種移植といった方法で細胞をマウスに移植して,マウス体内でヒトの癌を再現できて初めてわかるのだ.これが「癌幹細胞のin vivo アッセイ」である.もちろん,ヒトに移植して癌を再現するなどということはあり得ないので,実験動物,特にマウスに移植してヒトの癌を再現する実験がこれまで行われてきた.マウスなどの実験動物へのヒト細胞の異種移植の系は,ヒト正常造血幹細胞のアッセイ系として開発されて,様々な改良を重ねてきたのだ.その開発の歴史は古くは1960年代のヌードマウスの発見に遡る.しかし,このモデルが大きく発展したのは1995年以降で,NOD-scid(non-obese diabetic-severe combinedimmunodeficiency)マウスの開発によって,ようやく安定したヒト正常造血幹細胞のアッセイが可能となった.NODマウスは,自己免疫性に膵島が破壊されて糖尿病を発症する疾患モデルマウスで,ナチュラルキラー(NK)細胞活性の低下,マクロファージ機能の低下,補体活性の低下など,自然免疫にも障害を持つユニークなマウスである.NOD-scid マウスでは,T細胞,B細胞の欠損に加えて,これら自然免疫の低下により,効率良いヒト造血幹細胞の生着が得られると考えられている.1997年にこのマウスを用いて,トロントのJohn Dick博士らが急性骨髄性白血病で初めて“癌幹細胞”が存在することを証明し,エポックメイキングな発見となった.その後,ずいぶん経って2003年になると,同様の手法を用いて乳癌や脳腫瘍,大腸癌など様々な癌腫で癌幹細胞の存在を示す報告がなされ,現在に至っている.
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