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はじめに
20世紀,著しく発達した機械システムは,人間を肉体的負担から解放した.産業用ロボットや建設機械,自動車,家電製品は,人の代わりに重労働や繰り返し作業を行い,産業のめざましい発展と豊かな生活をもたらした.このような,人間に変わって作業をする従来型の機械システムの開発は,今後も引き続き必要不可欠だが,21世紀は,機械システムにより,人間を精神的負担からも解放する世紀であると著者は考えている.つまり,これまでの機械システムは,人間と一定の距離を保ち,人間に物理的に働きかけることなく作業していた.今世紀はそれに加え,人間の動作を直接支援し,自立をサポートすることで人間を精神的な負担から解放することが求められるであろう.高齢になっても障害者になっても,自分の意志で動き続けることができ,生きている限り自立した生活ができれば,精神的な負担が少なくなると著者は考えている.
昨今,盛んに開発が行われている人間の生活環境内で人間と共存するパートナーロボットは,自ら環境を認識して判断し,人間の役に立つと思われることをやろうとしている.しかしこれは,うまくいっても介護者の代わりになるだけで,結局,介護される人は動けるようにならない.それに,そもそも人工知能が不充分なため,どこまで本当に役に立てるのか分からない.人間の足手まといになり,人間をイライラさせるだけかもしれない.一方,人間の動作を直接支援する機械システムの場合,難しい判断や指示はそれを使用している人間が行えば良く,より実用的・現実的であるといえる.
ところで,磁気共鳴画像(MRI),超音波,光トポグラフィーなど,人間をセンシングする装置は日々進化しており,多くの製品が販売されている.一方,人間の動作を支援する,つまりアクチュエーティングする装置は,ほとんど開発されていない.人間を肉体的負担から解放してきた機械システムであるが,それらが扱う対象は非人間であった.人間を直接動かすシステムは,倫理的な問題,安全の問題,被験者を捜す問題などの様々なハードルがあり,仕様を決めてそれを満足するように開発すれば良いという単純なものではない.また,今までの開発例が少ないことから,使用する側も使用を指導する医師や理学療法士なども戸惑いがある.しかしながら,誰もが必要であると認識していることは間違いない.
このような考えに基づき,著者は人間の動作を物理的に支援する機械システムの開発を行っている.まだまだ満足できるものではないが,本報では,上半身の動作を補助するマッスルスーツ®と全く筋力がなくても歩行が可能となるアクティブ歩行器について,その概要を述べる.
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