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がんのゲノム医療の現状と脊椎腫瘍領域における可能性
次世代シークエンサーの開発により,全ゲノム配列の解読が可能となり,がん治療におけるゲノム情報の応用が急速に進んでいる.がん領域では,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の進歩と相まって,個別化医療が現実化しつつある.これにより,治療感受性や予後,有害事象の評価に役立つ情報が得られ,発症や再発リスクの予測を含めた治療・予防・検診・フォローアップの方針決定が可能になりつつある.脊髄腫瘍のような希少がんにおいても,ゲノム医療の適用が期待される.たとえば,脊髄腫瘍の中にはIDH1/2変異やBRAF V600E変異など,ほかのがん種で治療標的とされるドライバー遺伝子変異が認められるケースがある.これらの変異が確認された場合,脳腫瘍治療などで実績のある分子標的薬が応用可能となる.また,分子プロファイリングにより,腫瘍の生物学的・病理学的特性や分化度,悪性度に基づく治療計画の立案も可能になる.2015年のオバマ米国大統領(当時)によるプレシジョン・メディシン・イニシアチブの発表は,遺伝子・環境・ライフスタイルなどの個別情報を活用した医療の重要性を世界に示した7).
非小細胞肺がんのEGFR変異陽性患者に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の成功例にみられるように,脊椎腫瘍でも類似のアプローチが進められている.特に,EML4-ALK融合遺伝子やROS1融合遺伝子など,希少ながらも治療の手がかりとなる分子異常が発見されている.このように,がん治療におけるゲノム情報の応用は,形態学的分類に留まらず,腫瘍の遺伝子変異に基づく治療が主流となりつつある.転移性脊椎腫瘍では,ゲノム医療を通じた精密診断と個別化治療の進展が,予後の改善と治療効率の向上に貢献することが期待される.今後の課題は,原発腫瘍が希少がんであった場合のデータ不足の解消と,知識データベースの蓄積,分子標的治療薬のさらなる開発であり,これらの課題を克服することで,治療の選択肢が拡大することが期待される.
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