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特集 機能性神経障害(FND:ヒステリー)診断の革命
FNDの精神科的側面と内受容感覚や自己感への学術的発展
Psychiatric Aspects of Functional Neurological Disorder and Scientific Developments in Interoception and Sense of Self
是木 明宏
1
Akihiro KOREKI
1
1国立病院機構下総精神医療センター
1National Hospital Organization Shimofusa Psychiatric Medical Center
キーワード:
失感情症
,
alexithymia
,
内受容感覚
,
interoception
,
自己主体感
,
sense of agency
Keyword:
失感情症
,
alexithymia
,
内受容感覚
,
interoception
,
自己主体感
,
sense of agency
pp.111-119
発行日 2024年3月15日
Published Date 2024/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5002202266
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はじめに
機能性神経障害(functional neurological disorder:FND)は古典的にはヒステリーと呼ばれ,精神医学では虚偽性障害や詐病に近い文脈で,個々の患者において症状を引き起こす疾病利得は何かが臨床的に評価され,症状は合目的なものとされてきた.この歴史的背景には鉄道脊髄症や戦争神経症に絡んだ賠償問題もあるが,このような視点は精神科臨床の中で今もなお標準的といえる.しかし近年では,FNDを虚偽性障害や詐病とは明確に区別して病態を捉え直すべきという視点が,特に神経内科学の中で徐々に広まってきている11).ここでは疾病利得は病状を遷延させる因子と位置づけられる.また,関連した別の伝統的視点に心的外傷がある9,35).実際にFND患者では心的外傷の頻度は高く,それは症状形成に大きく影響しているだろう.一方で,心的外傷をFNDの発症脆弱性に寄与する因子の中の一つとして捉え19),リスク因子とFNDの病態生理自体を注意深く切り離す慎重な研究姿勢もまた重要である.
FNDは精神医学と神経内科学の両方にまたがる疾患であり,その病態解明および治療技術の発展には両分野の協働が必要である.神経内科学と比較すると,精神医学はいまだに類型学を基礎とし,統合失調症やうつ病でもなお病態解明の決め手に欠けている.FNDもその病態解明に深く迫るほどの学術的発展は今後に期待する必要がある.
本稿では,FND周囲の精神疾患を前半で概説するとともに,後半では近年注目されている内受容感覚からの視点も含めて概説する.なおここで示すのは一つの説に過ぎず,今後のさらなる研究に期待する現状にご容赦いただきたい.
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