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研修医時代に神経内科をローテートした際に,幅が広く奥が深い神経領域の疾患に興味をもち,ハンマー1本で生きていける強いキャリアに憧れて1997年に川崎医科大学神経内科学教室に入局した.それから26年間,主任教授である砂田芳秀先生をはじめ,多くの先生方から厳しくも愛のあるご指導を賜ってきた.私の専門分野は神経生理検査だが,黒川勝己先生(現・川崎医科大学総合医療センター神経内科学教授)には,初歩から手ほどきをいただき,ハンパない熱量でご指導いただいた.今でも難しい症例は黒川先生に相談しにうかがっている.雑多な経験で底が浅いものだが,これまでいただいたご恩に報いるべく,必ずやお役に立つようなよい仕事をしたいと思っている.
神経生理検査(神経伝導検査,針筋電図検査,体性感覚誘発電位など)は,運動麻痺や感覚障害の責任病巣を突き止めて的確な診断をするうえで大変重要な役割を担っている.一口に運動麻痺といっても,一見しただけでわかるような片麻痺は,ほとんどのケースが反対側の大脳に病変があり,直ちに頭部CT・MRIを行えば比較的容易に診断ができる.ところが,運動麻痺には必ずしも診断が容易ではないものがあり,病歴や臨床徴候から正しい結論を導き出す能力が求められる.いつ,どのように発症したか,ポイントを押さえた病歴聴取を行い,的確な神経診察で原因を絞り込まないと,思わぬ回り道をして正しい診断に辿り着けない.神経疾患はベッドサイド診療のみで病態の大要を把握することができる.特に運動麻痺では徒手筋力テスト(MMT)を正確に評価することが重要となる.MMTの結果,運動麻痺が筋節や末梢神経の分布に一致していれば,「中枢性」よりも「末梢性」麻痺の可能性が高まる.針筋電図を行い,脱力のある筋から脱神経が得られれば,「末梢性」麻痺と確実に判定できる(脳血管障害や腫瘍性病変による限局性麻痺は否定的となる).さらに,脱神経の分布を調べることで,責任病巣が筋節と末梢神経のどちらであるかを区別することができる(例:L5神経根症vs腓骨神経麻痺).感覚神経伝導検査は,責任病巣が後根神経節より前か後かを区別するのに役立つ(例:C6神経根症vs上神経幹障害).近年,CT・MRI・ミエログラフィーなど画像診断の進歩が目覚ましく,つい画像検査に頼ってしまうが,これらは(神経生理検査もそうだが)あくまでも補助検査であり,ベッドサイド診察で得た所見を補完する目的で行うものであることを理解しなければならない.腰部脊柱管狭窄症を例に挙げると,下位狭窄(L4/5,L5/S1)ではおおむね神経所見と画像所見が一致するが,上位狭窄(L1/2,L2/3,L3/4)の場合は両者の所見に乖離を生じることがある(いわゆる「髄節ずれ」).これを考慮しないと,責任病巣を誤ったり適切な治療の機会を逸したりするため注意を要する.
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