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発達障害の作業療法にかかわるものにとって,発達障害について正しく知ることは最も大切である.本誌の第1章では,医学的見地からの発達障害の定義および歴史的変遷,日本の発達障害関連支援施策,OTの経験知,日本作業療法士協会が取り組む学校OTに関する情報,当事者の求める視点,発達障害と精神科医療との連携について明確な解説がなされ,関心のあるすべての読者にとって最も基本的かつ大切な情報を提供している.
第2章では,わが国で実施されている発達障害児・者支援の現状と課題,将来への視点について,医療,福祉,教育,就労,家庭生活,地域生活,性教育にわたる幅広い領域における取り組みが集約されている.発達障害に対する支援は,幼少期から老年期まですべてのライフステージにわたり,住み慣れた地域で,発達障害がある当事者も一般市民も,共に継続的かつ健やかに生活するための包括的な支援が求められる時代である.日本の作業療法の歴史を振り返れば,発達期に発達の遅滞や心身機能構造面に障害があるすべての子どもたちを対象とした医療・療育における長い実践がある.しかし,2005年(平成17年)に発達障害者支援法が施行され,発達障害の啓発,都道府県での発達障害者支援センター設置等,発達障害児者の自立と社会参加の援助について国・自治体の責務が規定されたことを受け,発達障害がある子どもの早期発見,早期支援が推進され,専門家チームの一員として,地域におけるOTの需要が高まりつつある.しかしながら,たとえば福祉型の障害児通所支援として児童発達支援,医療型児童発達支援,放課後等デイサービス,保育所等訪問支援等,就学前から就学後にかけての複数のサポート体制があるなかで,そこで行われる支援が具体的にどのような内容なのか,またOTに求められる役割とは何かをイメージできるOTは多くはないであろう.また,教育の現場においても,発達障害はスペクトラムの概念であることから,その障害像が幅広く,知的能力障害や適応能力障害の併存とその程度によって,小学校,中学校の通常級,特別支援学級,通級指導学級,高等学校,大学,特別支援学校の小学部,中学部,高等部(普通科,就業技術科,職能開発科)等に在籍している.OTは特別支援教育における専門家の一員として教員の後方支援を担い,発達障害の特性に応じ適切な教育が受けられるよう,合理的配慮を提案できる職種でもある.しかしこの領域も,多くのOTにとっては新しい領域であろう.加えて,思春期からの第2次性徴期における問題行動,就労,結婚,出産,育児,家庭生活等,成人に至るライフステージのさまざまな場面で生じる課題も含め,本章は非常に読者の理解を助ける内容となっている.
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