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7月になると新しい後期研修医も外科医らしき姿に成長しつつあり,手術でのカメラワークもだいぶ上達してきた.私が外科に入局したのは昭和61年であるが,当時は肺癌の手術は大きな開胸下に行われ,第3助手として術野が見えない場所で長時間ひたすら鉤を引くことと皮膚縫合が仕事であった.内視鏡下手術という概念もない時代のことである.剃毛,ブラシでの手洗い,術後抗生剤1週間,止血剤の点滴などが常識であったが,現在ではこれらは非常識(禁忌!?)となり,行われていない.振り返ると医学は大きく変貌している.現在の研修医は克明なモニター画像を通して術野の様子がリアルタイムに見ることができ,私が受けた手術教育とは隔世の感がある.昔は年長者の助言によって治療方針が決定されたことも少なからずあったが,普遍的な経験談が多く大変勉強になった.最近はガイドラインを順守することや,教室で統一したある種のデジタルな方針を求め,客観的に治療方針が決定されなければ落ち着かない若い医師もいるようである.もちろん臨床は科学的な思考の積み重ねであり,EBMを尊重する姿勢は奨励するが,同時に実臨床において一つの解を求めることが難しいことも多々あることを理解してほしい.たとえば電車の中で座席を譲るのは何歳からなどという取り決めはなく,自らが判断するしかない.内視鏡下手術中にアクシデントがあり開胸に移行する場合にも明確な基準があるわけでなく,自らの判断で瞬時に決定しなければならない.どのような質の高い教育プログラムやマニュアルを以てしても,臨床に想定外の事象はつきもので,その際は知識を駆使し,最後は決断力で解決していく必要がある.このような理論を超越した洞察力こそがプロフェッショナルの技量であり,自らの体験や他者の経験から学びながら身につけるものである.
編集委員として論文を審査しているが,本誌はアイデアの宝庫である.数ページの論文誌面の裏には外科医の苦心が凝縮している.査読をしていても術者の胸の鼓動が伝わってくる論文も多々ある.誌面には限りがあるので,投稿論文が必ずしも収載されるとは限らないが,自らの工夫や考えを他者に伝えようとする努力は,いつかは真の実力となって報いられると信じる.
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