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日頃どんなコンピューターを使っていますか.医療業界はデザインや音楽業界に次いでMacのシェアが高いようで,愛機がMacの方も少なくないと思います.過日アップルの創始者にしてパーソナルコンピューター時代の預言者であるSteve Jobsが56歳でこの世を去りました.Jobsは私と同い年で,彼の生き様を同時代でみてきました.Appleからの追放,NEXTやピクサーの創設,そしてAppleへの復活,ボンダイブルーのiMacの登場.その後のiPodやiTunes,そしてiPhoneの成功は皆さんのよく知るところと思います.意外と知られていないことですが,Jobsは若い頃から禅に傾倒した仏教徒であり,禅宗の日本人僧侶乙川弘文を精神的指導者と慕っていたともいいます.Jobsは日本の文化にも関心が高く,日本食を好み,特に蕎麦が好物だそうです.Apple本社の食堂Café MacsにはJobs自身が考案した刺身蕎麦というメニューがあり,Café Macsで働く日本人スタッフの女性は,Jobsのために築地で本格的な蕎麦打ちの修行をしたとのことです.彼のデザインの真骨頂は,簡素化された美の追究で,使用者が目にすることがほとんどないプリント基盤の並びが美しくないという理由で基盤を再設計させたり,出っ張りのあるフロッピーディスクのイジェクトボタンが美しくないという理由でAutoejectにしたというような逸話も残っています.有名なスタンフォード大学2005年卒業式でのスピーチでJobsは,「自分はまもなく死ぬという認識が,重大な決断を下すときに一番役立つのです.なぜなら,永遠の希望やプライド,失敗する不安…これらはほとんどすべて,死の前には何の意味もなさなくなるからです.本当に大切なことしか残らない.自分は死ぬのだと思い出すことが,敗北する不安にとらわれない最良の方法です.われわれはみんな最初から裸です.自分の心に従わない理由はないのです」と述べています.いかにも禅宗に帰依したものの無常観を表わしており,われわれ日本人の感性にも近いのではないかと思います.このようにみると,彼のデザインポリシーも禅の思想が色濃く反映しており,それ故に日本でMacが特段の人気なのかもしれません.このスピーチは「貪欲であれ,馬鹿であれ(Stay Hungry, Stay Foolish)」で締めくくられています.これらが新しい物を生み出すエネルギーの源泉であるのは間違いないのですが,Jobsが持つ無常観と両立しているのに感心しています.新たな手術手技などの論文をみるときには,著者がHungry でFoolishな程おもしろいと思えるのは,私がマックユーザーであるのと基を一にしているのかもしれません.
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