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パラダイム(paradigm)は,15世紀末初出の単語でラテン語のparadigmaを語源としています.一般的には“規範”や“範例”といった意味の単語ですが,科学史家トーマス・クーンが提唱したパラダイム概念(1962年)が,その当初の意図からはかけ離れて拡大解釈され,「認識のしかた」や「考え方」,「常識」,「支配的な解釈」,「旧態依然とした考え方」などの意味合いで使われるようになりました.パラダイムシフトはこの過度な拡大解釈に基づいて都合よく用いられてきたため,厳密な定義は特になく「発想の転換」や「見方を変える」,「固定観念を捨てる」,「常識を疑え」などから始まり「斬新なアイディアにより時代が大きく動くこと」まで,さまざまな意味で使われているようです.人類は常に何らかの問題を抱えており,その解決を迫られています.新たに有効な問題解決法が提起されたときに,パラダイムシフトという単語を用いると印象的かつ説得力があるので一般に広まってきたようです(クーン自身は後日パラダイムシフトの定義の曖昧さについての指摘を受けたこと,概念の安易な拡大利用を嫌ったことから,パラダイム概念を放棄し専門母型(disciplinary matrix)という概念に変更したと成書にありました).
パラダイムシフトの例として,まず旧パラダイム(例:天動説)が支配的な時代は,多くの人(科学者)がその前提の下に問題解決(研究)を行い,一定の成果を上げるが,その前提では解決できない例外的な問題(惑星の動きがおかしい)が登場する.このような問題が累積すると,異端とされる考え方の中に問題解決のために有効なものが現れ,解決事例が増えていくことになる.そしてある時期に,新パラダイム(地動説)を拠り所にする人(科学者)の数が増えて,それを前提にした問題解決(研究)が多く行われるようになる.以後,以上の動きが繰り返される.
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