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「心血管イベント発症予測ツール」(以下,予測ツール)とは,特定の個人の血圧値,コレステロール値,喫煙状況など,複数の心血管病リスク因子などをもとに,その個人が将来心血管イベントを発症する確率を予測するツールである。「今後10年間(あるいは5年間)で何パーセント」という形で表されることが多いが,ツールによっては生涯に罹患する確率(lifetime risk)を算出するものもある。これらの発症確率は,“絶対危険度(絶対リスク)”とよばれることがある。これに対して「喫煙者は非喫煙者に比べ10年間での発症率は2倍」といった表現は“相対危険度(相対リスク)”を用いた確率の表し方である。このように,複数の予測因子を用いて疾患の発症・死亡の絶対危険度を算出することが予測ツールの共通した特徴である。最もよく知られている予測ツールとして,Framingham研究をもとにしたFramingham Risk Score(以下,Framinghamスコア)1)やヨーロッパのSCORE(Systematic Coronary Risk Evaluation)2)などがある。日本でもNIPPON DATA803)や久山町研究4),JALS-ECCなどのコホート研究から同様の予測ツールが提唱されている。
予測ツールは,コレステロール値や収縮期血圧といった単一リスク因子のみに着目するのではなく,それらを総合して将来の発症・死亡確率を評価するため“global risk tool/instrument”とよばれることがある。global risk toolを用いた診療は,国内外の診療ガイドライン(『米国心臓協会(AHA)・米国心臓病学会(ACC)合同一次予防ガイドライン2010』5),欧州心臓病学会(ESC)による『循環器疾患予防のためのヨーロッパ臨床診療ガイドライン2012』6),日本動脈硬化学会による『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012』7))で推奨されている。その理由として,特定の個人の発症リスクを正確に推測することの困難さ8〜10)や,包括的なリスク管理の重要性が認識されてきたためであろう。本コラムでは臨床活用を念頭に,予測ツールについて考察を進めてみたい。
※本稿では「冠動脈疾患」と「虚血性心疾患」とを同義と考え,オリジナルの記載が「冠動脈疾患」「coronary heart disease」などの場合も「虚血性心疾患」として統一した。
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