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カリウムイオン(K+)は細胞内液の主要な陽イオンであり,体内の総Kの約98%が細胞内に存在する。細胞内のK濃度は約140mEq/L,細胞外液のK濃度は約4mEq/Lであり,このK濃度勾配が細胞の静止膜電位を形成している。そもそも,生理学の教科書を紐解けば,静止膜電位(Em)はGoldman-Hodgkin-Katzの式から下記のように導出されるが,このときK,ナトリウム(Na),クロール(Cl)の透過係数,PK,PNa,PClの比は1:0.04:0.45となり,Kの透過係数が格段に大きいことから,静止膜電位の形成にKが重要な働きをしている1)ことが理解できる。
Em=-61×ln〔(PK[K]i+PNa[Na]i+PCl[Cl]o)/(PK[K]o+PNa[Na]o+PCl[Cl]i)〕
このKの電気化学的ポテンシャル勾配を形成しているのが,細胞膜のNa+-K+ ATPaseであり,能動的に細胞内にK+を取り込み,細胞外へNa+を放出し,静止膜電位を陰性に保っている。上式に従えば,細胞外K濃度が低くなると,静止膜電位は過分極に,高くなると静止膜電位は脱分極に傾く。
このようにKは細胞の静止膜電位を決定する最重要因子であり,このことは取りも直さず,K濃度の高低が細胞の興奮しやすさ,しにくさを規定することを意味する。この影響を直接受けるのは筋肉と心臓であり,集中治療の現場でもK濃度の異常が患者の生死を左右することは実際に多いと考えられる。特に低K血症は高K血症に比べ一般にその危険性が軽視される傾向にあり,また,治療開始基準,補正方法など一定の見解がないのが現状である。
本稿では低K血症にスポットを当て,そのcontroversialな問題の数々に関して,最新の知見を基に考察する。
Summary
●病歴とスポット尿,血液ガスデータのみで低K血症のかなりの原因診断が可能である。尿中K排泄量の指標は,それぞれの長所・短所を理解して用いる。
●低K血症の治療開始基準は治療技術の進歩とともに変化しつつあるが,急性心筋梗塞後や心不全など,低K血症に注意すべき病態がある。
●K補正液のK濃度,補正速度の上限には一定の見解はないが,承認用量を超える場合はICUでの心電図モニタリング下で補正を行う。
●再分布性の低K血症のK補正では,リバウンド高K血症に注意する。
●経口K製剤の補正速度は意外に速く,全身状態が安定した低K血症患者には積極的に用いる。
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