当世 問はずがたり
折れそうなココロに欲しい処方箋
石黒 達昌
pp.931
発行日 2017年9月1日
Published Date 2017/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101200958
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- 文献概要
先日,『ちょっと今から仕事やめてくる』という,がつりと硬いものを噛んだような後味の映画を見てきました(以下,ネタバレはないのでご安心を)。仕事のノルマが厳しく精神的に追い詰められていた主人公が,駅のホームで入線してくる電車の前に倒れ込みそうになったところを,幼なじみのヤマモトと名乗る青年に助けられるところから始まるストーリーは,そのヤマモトが3年前に自殺していた,という事実が明らかになることでミステリー仕立ての様相を帯びてきて……。主人公に工藤公康元投手(現ソフトバンク監督)の長男である工藤阿須加が抜擢されたことが話題になったものの,休日にもかかわらず客席はまばらで,同時期公開のアニメや洋画の混雑ぶりとは大違いでした。
今の時代にありがちなテーマで売れ線をねらったのが滑ってしまったのかもしれませんが,個人的には,テーマ云々よりも,描かれていたブラック企業のディテール,特に暴君部長を演じていた吉田鋼太郎の印象が強烈で,今になっても,気づくと一人トイレで,彼が毎朝社員に復唱させていた「有給なんてとりません,身体がなまるから」とか「心をもたなければ心は折れません」とかいった言葉を呟いていたりして,もうほとんど心的外傷後ストレス障害(PTSD)状態です。というか,おそらく多くの観客は,彼の演技によって軽いPTSDを発症したのではないでしょうか。かつて出会った「あの人」がフラッシュバックしてきたはずです。
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