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◆「報告書は,もっと後向きに書きなさい」
先日,ある編集部員に向けて発した言葉です。もちろん「後向き」とは“retrospective”という意味で,「過去の情報をきっちりと集めて,自らを振り返り,自らを分析しなさい」という意図です。これを受けて提出された報告書には,愚痴や悲観などのnegativeな言葉は羅列されていなかったので,私の意図がそれなりに伝わったと一安心いたしました。
このretrospectiveに対する「後向き」という日本語訳。部員にも伝わったのですから,言葉としての役割は十二分に果たしています。でも,もう少しピッタリな日本語はないものかと,いつも引っかかります。もちろん,多くの先人が熟慮したうえでの訳語でしょうから,そうすぐにほかの適訳が出てくるはずもありません。そして,この言葉について思案するたびに,ほかの多くの言葉が,意味の説明なしに皆に了解され,使われていることを実感します。
◆しかし実際は,ある言葉の意味を本当に皆が同じように了解しているのか,怪しいものです。例えば「コンセプトconcept」。社内の企画検討会議で飛び交う言葉ですが,発する側と受ける側が同じ解釈をしているのか,甚だ怪しい。もちろん,この怪しさは外来語に限りません。例えば「編集方針」。そもそも「編集」とは何かも人それぞれで,それだけで一冊の本ができるくらいです。当然その方針も,確固たるものとして共有するのは難しく,かくして,コンセプトと編集方針を十分に検討した企画でも,実際に出来上がって,「ああ,こんな本になるのだったのね」と初めて了解することに。もちろん,担当者にとっては「想定通り」なのでしょうが。
◆ある患者の麻酔管理について,麻酔科医同士で話をするときよりも,外科医や看護師と話をするときのほうが,相手はこちらが言っている意味をわかっているだろうか…と,より慎重に進めるものだと思います。ましてや,患者さんへの説明ともなれば,専門用語を一つ一つ噛み砕いて説明して,最後には「何かわからないことは?」と確認する丁寧さが要求されます。
言葉の意味を共有することは,コミュニケーションの基本です。そして,「これ,どういう意味?」と少し引っかかる言葉を使うほうが,実は正確なコミュニケーションがはかれるものかもしれません。
◆「LiSA」は,おかげさまで多くの麻酔科医の知るところとなりました。しかし創刊時は,原稿執筆依頼をしても,「リサ? はて,何ですか?」と受け止められたと聞きます。そのたびに説明し,共有して,そこからコミュニケーションをスタートさせてきて,今があるのでしょう。
今度は,「Hospitalist」が誕生しました。同じように「はて,何ですか?」と思う方へ,ホスピタリストとは何者で,どのように日本の医療に貢献しようとしているのか。まずは「ホスピタリスト」の意味を共有して,コミュニケーションを始めましょうというのが,「Hospitalist」誌創刊号の“コンセプト”です。まずはご一読ください。
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