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■年頭に当たり,皆様のご多幸をお祈り申し上げます。
日本漢字能力検定協会による2011年を表す漢字は『絆』。東日本大震災ならびにそれに伴う原発事故被害を,われわれはこれからも,それぞれの仕方で共有していかなければなりません。一刻も早い復活を願います。
■中尾三敏著『和本のすすめ』(岩波新書)で,室町時代の終わり頃には,宣教師によりグーテンベルグ式活字印刷機が渡来していたこと,また,秀吉の朝鮮出兵に伴い,朝鮮式銅活字印刷技術が伝わったことを知りました。ということは,この時代すでに活字印刷の技術があった,とは驚き(単に知らなかっただけなのですが)。そして,「嵯峨本」「光悦本」といった,今でいう豪華本が作られました。しかし,和本の歴史をみると,この活字印刷,いいところまで行きはしたものの,結局は主流にはなりきれず,江戸時代は伝統的な整版印刷(版木を彫りばれんで刷るやつです)が主流に返り咲きます。その大きな理由は,商業印刷に適さなかったからだというのが,今から考えると逆,で意外。
江戸時代は階級社会,和本にも階級がありました。当時の書物には手書きの写本と印刷された板本とがあり,出版文化の華咲く江戸でも,写本が主で,板本が従であったというのも驚き(江戸の後半では逆転するようです)。そもそも,由緒正しき能書家の筆による写本と,しょせん大量複製品の板本という感覚があったとか。まあ,絵師の肉筆画のほうが貴重,というのと同じ。で,板本にも,お堅い教養書的な「物の本」,その下に,エンターテイメントを主とした「草紙」と,ランクがあり,大きさでそのジャンルが特定できた。専門書,新書や文庫,まあ,今でも同じことが言えるわけです。
例えば,マンガ。最初はごわごわの紙の週刊誌がスタート。それが1冊,コミックとなると,紙は白くなり,薄っぺらいが,カバーもつく。さらに,豪華本ともなると,ハードカバーで,場合によってはケースにも入ってくる。随分待遇が異なります。お気に入りの作品であれば,もちろんハードカバーを購入。さらに高じれば,復刻本では飽きたらず,初版本を手元に置いておきたくなる…。本好きというのは,物欲にかられるやっかいな性格をもっているかもしれません。となると,電子書籍はいったいどんな位置づけになるのか。
で,電子書籍がスタンダードになると,“本”は特別なもの,江戸初期の写本のような存在になること間違いありません。そして何十年か先,老麻酔科医がおもむろに本棚から『ミラー麻酔科学』を取り出し,iPadを手にする研修医に渡して言います。「電子もよいが,情報だけを扱っていると失敗する。まずは本を手に持って,その重さを知ること。そこに先人たちの努力を全身で感じ取ることが大事なのだ…」と。そのとき,その研修医は,神妙そうに頷くのか,それとも…。
ともあれ,内容がまず相手にされるものでなければならないのは確か。今年もLiSAは,さらに一歩前に進んで行かなければならない,と感じております。
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