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The New England Journal of Medicine
Editorial:
Ziegler TR. Nutrition support in critical illness-bridging the evidence gap. N Engl J Med 2011;365:562-4.
Article:
Casaer MP, Mesotten D, Hermans G, et al. Early versus late parenteral nutrition in critically ill adults. N Engl J Med 2011;365:506-17.
集中治療患者において,栄養投与の開始時期,投与方法(経腸,経静脈),カロリー,アミノ酸や脂質,炭水化物などの配分,目標とすべき血糖値,栄養評価などについて迷うことが多い。栄養サポートチームが立ち上げられている施設も多いが,その活動はまだ不十分なように見受けられる。
欧州と北米で,集中治療室(ICU)における栄養療法に関するガイドラインが2009年に出されたが,経静脈栄養の推奨開始時期は異なっている。欧州のガイドラインでは,経静脈栄養をICU入室後数日以内に開始することを推奨している。一方,北米のガイドラインでは,入室前に低栄養状態でなければ,7日間は経静脈栄養を開始しないことを推奨している。このような大きな差があるのは,どちらのガイドラインも専門家の意見や,観察研究,小規模研究など,レベルの低いエビデンスにもとづいていることによる。Casaerらの研究は,前向き大規模多施設無作為化比較研究によって,両ガイドラインのアプローチが患者予後に与える影響について検討したものである。
早期開始群(n=2312)では,20%グルコース輸液をICU入室1日目から開始し,2日目から経腸栄養(主として経管栄養)を開始し,1日のカロリー必要量を満たした。晩期開始群(n=2328)では,ICU入室1日目に5%グルコース輸液を開始し,2日目から経腸栄養を開始し,7日目以降に経静脈栄養をカロリー必要量に応じて開始した。両群とも平均年齢は64歳,男性が64%程度を占めていた。癌患者は19%程度,敗血症患者は22%を占め,平均APACHE Ⅱスコアは23であった。
インスリン必要量は早期開始群で有意に多く,平均血糖値も107±18mg/dLと晩期開始群の102±14mg/dLよりも有意に高かった。ICU入室期間の中央値は,晩期開始群で3日と早期開始群より1日短く,入院期間は2日短かった。晩期開始群ではCRP上昇などからみた急性炎症性反応がより顕著であったものの,感染症(気道,肺,血液,創)の発症率は29.9%と,早期開始群の40.2%より有意に低かった。晩期開始群では,人工呼吸期間や,急性腎不全に対する透析療法期間が短縮した。ただし,入院死亡率は両者とも10%程度であり,2群間に有意差はなかった。
この研究からは,経静脈栄養は,ビタミンや微量栄養素,ミネラルなどを補っていれば,ICU入室早期に開始するよりも,1週間程度経ってから開始するほうが,患者の回復を良好にすることを示唆している。
さて,目の前の集中治療中の患者,今日の栄養メニューはどうしましょうか。
(稲田 英一)
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