巻頭言
医学と生物学
熊谷 洋
1
1東大医学部薬理学教室
pp.349
発行日 1958年12月15日
Published Date 1958/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906043
- 有料閲覧
- 文献概要
医学部の基礎医学と呼ばれている部門は,臨床医学の基礎的知識を与え又は研究することを目的として出発したものとされている。本来の目的はすべて人体に関したものであつたが,実状としては殆ど大部分の基礎医学の研究は動物(時には植物)について行われている。つまり基礎医学者は,生物学者である。この事は人体を対象とする研究には方法論的にも限界があつてどうしても動物によらねば実施出来ないためでもあるが,現代の生物学を含めて一般自然科学の飛躍的な発展による処が多い。動物に於ける研究のすすめ方も,無傷動物,剔出器官,細胞単位更には細胞機成成分についての分子水準に於ける研究といつた具合に,逐次分析的な方向に及んだ事は当然であろう。殊に無傷動物に於ける諸反応は定量性の低いことが多く,一見漠然としており時にはたよりなくさえ感ずる。ここには然し物指しにひつかからない生き生きとした生命現象がかくされていてけい眼の人にとつては非常な啓発となり,又魅惑的でもあるが,その反面生物反応を強張しすぎると生物反応と云う言葉の上にあぐらをかくという危険性も内臓されている。けれども真の生物反応をつかまえようとすれば勢い一度は分析的な方法にたよらざるを得なくなる。生物をより単純な系に還元して,より正確な資料と情報を得たくなるのが当然であろう。殊に分子水準で解明乃至論議出来る事は長所であり且つ魅力的でもある。
Copyright © 1958, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.