Japanese
English
特集 神経科学の最前線
生物時計の分子生物学
Molecular Biology of the Biological Clock
仁木 朋子
1
,
石田 直理雄
1
Tomoko Niki
1
,
Norio Ishida
1
1工業技術院生命工学工業技術研究所
pp.61-66
発行日 1996年2月15日
Published Date 1996/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425901063
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
時差ボケという現象がある。最近出張や旅行で海外へ行く人が多いので,これを体験したことのある人も多勢いるのではないかと思う。日本との時差が大きい外国へ行った人が訴える症状としては,不眠,だるさ,胃腸の調子がおかしいなどといったものが挙げられる。しかし時差ボケは人によって差があるが,大体1週間前後の時間をかけて徐々に解消する。これを比較的はやく治すには,毎朝一定の時間に太陽の光に当たるのがよいとされている。一体なぜ,このような時差ボケという現象が起こるのだろうか?これを説明するためにまず,生物の持つ約24時間周期のリズムの話から始めたいと思う。
われわれ昼行性の動物である人間は,昼間に起きて活動し夜に眠るという約24時間ごとの営みを繰り返している。また行動だけではなく,体内においては体温,血中のホルモン濃度の上下,リンパ球の増減なども1日周期で現れることがわかっている1)。このように約24時間周期で見られる現象をサーカディアンリズム(サーカは大体,ディアンは1日を示すラテン語)と呼んでおり,もし,人を時間の手がかりのない,たとえば真っ暗な中に閉じこめたとしてもこのリズムは長期間継続する。これは体内に約24時間周期で時を刻む生物時計(体内時計)が存在しているからである。サーカディアンリズムはヒトだけではなく,ショウジョウバエ2),アカパンカビ3),原核生物であるらん藻4)にまで広く生物界にみられる重要な生理現象である。
Copyright © 1996, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.