特集 酵素と生物
巻頭言
「生体の科学」50号発刊を記念して
児玉 桂三
1
1国際酵素化学会議組織,徳島大学
pp.193
発行日 1957年10月15日
Published Date 1957/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905960
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生命現象の神秘な扉は科学がこれほど進歩した今日に於ても依然として固く閉されている。多くの科学者はこの扉を開く鍵を探し求むべく大なる努力を払つている。その中で最も有望なのは酵素化学者である。と云うのは生命現象は酵素なくしては起り得ないことが明瞭だからである。彼等はこの酵素を分離精製しその本態を究めんとしている。またその作用機序を知り生命現象との関連を探知されんとしている。複雑なる生命現象の一こま一こまについてこれらの関係が闡明にされた曉にその綜合に立ちて神秘の扉が開かれるであろう。
今日までの酵素化学の歩みを顧るに酵素によつて営為される醗酵は古代に於て人類生活の中に取入れられた技術であるが近代科学の対称として酵素がとり入られたのは1897年Edward Büchnerにより酵母からチマーゼの分離されたことに始まる。爾来いろいろの生物反応に与える酵素の分離精製がもたらされたが,1926年Sumnerによりウレアーゼの結晶化がなしとげられたことは劃期的な進歩である。続いてNorthrop及びKunitzによりペプシン,トリプシン,ヒモトリプシンなどの結晶もとり出され,さらに現在はほとんどあらゆる酵素の結晶が得られるようになつた。結晶化は必ずしも純粋化を意味しないが,しかしその第一歩であることには間違いない。かくして得た結晶はいづれも蛋白質より成立つている。
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