特集 酵素と生物
巻頭言
生物学の立場から見た酵素化学
市原 硬
1
1阪大医学部生化学教室
pp.194-195
発行日 1957年10月15日
Published Date 1957/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905961
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名前をはつきりいつた方が,はつきりしてかつおもしろいから,名をあげて記述しよう。現金沢大学総長の戸田正三先生が大阪府高槻市にある高等医専の校長をしていられた頃,私もそこの生化学教授を兼ねていた。ある日の雑談で戸田校長が次のことを話された。
僕が京大医学部長の時に,病理解剖学という名をやめて病理学にしようと思つたことがあつた。病理解剖学というような馬鹿々々しい学問はないよ君,病理学で充分ぢやないか,だいたい目学,耳学ちうような学問があるかい,そんなことをいうなら,植物学では松学,梅学,桃学,竹学なんぼでも学問があることになる。そんな馬鹿々々しいことはあるまい。植物学で充分だろう。だから病理解剖学をやめて,病理学にするつもりだつた。そうしたら藤浪先生に泣きつかれた。病理解剖学という名は自分がつけたんだから,私の一代はこのまゝにしてくれ,といつてネ。それで僕も相手が藤浪先生だものだから,とうとうくどき落されてそのままにして手をつけなかつた"。
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