巻頭
物質と機能
H. Y.
pp.97
発行日 1950年12月15日
Published Date 1950/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905548
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生物体を構成している物質に現在ほど多くの分野の学者が眼をむけている時代はないだろう.直接この方面の学問にたずさわつている生化学者のほかに,生理学者,純正化学者,物理学者,動物学者,植物学者,までが,一樣に生体構成に深い関心をよせている.20年前,私が大学の講義室で生化学の講義をきいた頃はビタミンA,B,C,D,Eという名前はわかつていたが,その化学構造は勿論わかつていなかつたし,純粹の物質として取出されるまでにもいたつていなかつた.それはただ生物学的,乃至臨床的の作用によつて知られていたに過ぎなかつた.それが今日では,ビタミンA,B,C,D,Eのいずれも構造がわかつて,そのあるものは合成によつて大量生産出來るまでになつた.
最近にいたつて,蛋白質に関する研究,ことに蛋白質の物理学的性質と,分子内の構造に関する研究が非常に進んで,ある蛋白質ではその主体をなしているペプチード鎖の折れまがり工合まで推定されるようになつた.酵素に関する研究はことに色々の方面と関係がふかいだけあつて,毎年の進歩はまことに目ざましいかぎりである.新しい酵素が次から次へと報告されるし,酵素反應の反應動力学も微に入り細を穿つて少し専門をはずれた者には中中理解しにくいまでになつた.
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