話題
第10回運動生化学研究会を開催して
跡見 順子
1
Junko Atomi
1
1東京大学教養学部体育学科
pp.73-76
発行日 1989年2月15日
Published Date 1989/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905241
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"運動"の研究は,"運動"を特殊に担う器官として分化してきた骨格筋を対象に,その収縮機構を中心にした生理学的・生化学的研究が古くから成されており,日本の科学研究のもっとも進んだ研究分野の一つである。一方,"身体運動"の研究は,ヒトを対象とした研究が中心になったため,主に運動をエネルギー消費量の関数として捉える,あるいは運動の作業能力(performance)としてとらえるといった定量的解析が主となり,体力問題,スポーツマンや健康のための運動処方の研究が中心であった。その後,バイオプシーによりヒトの骨格筋の生化学組織学的研究ができるようになり,筋線維タイプと運動performanceの研究や運動に伴うエネルギー消費に関する要因をエネルギー基質の面から物質的にとらえた生化学的研究が主に欧米諸国で行われ,数多くの定量的なdataが蓄積された。この中から"グリコーゲンローディング"という長距離走のための食事法が提案され,また運動の種類,強度,時間などによる様々な現象が明らかにされた。
このように,日本ではこれまで身体運動に関する科学的研究の中心が体力科学,運動生理学として行われてきたため,生化学的研究が行われる素地がきわめて浅く,1970年代からの生命科学の急激な展開を前にその成果を素早く受け入れる土台が築かれていなかったといえる。
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