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特集 細胞毒マニュアル—実験に用いられる細胞毒の知識
膜一般に作用するもの
バリノマイシン(イオノフォア)
Valinomycin (ionophores)
平田 肇
1
Hajime Hirata
1
1自治医科大学第1生化学教室
pp.497-499
発行日 1984年12月15日
Published Date 1984/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425904651
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■特性
Streptomyces fulvissimusによって産生される分子量1,111のペプチド性抗生物質で,生体膜や人工リン脂質膜に直接作用し,それらの陽イオン透過性を高めるイオノフォアの一種である。K+などの1価陽イオンと1:1で結合した脂溶性の錯体(包接化合物)を形成し,本来これらの陽イオンに対して不透過性の膜に入りこむことによってイオンの透過を促進する。バリノマイシンは環状構造をもち,分子の外側に多数のメチル基やイソブロピル基が配列するため,分子として疎水性で,水にほとんど不溶で,有機溶媒などに溶ける。また,分子中に解離しうる残基をもたず,分子自身としては電気的に中性であるが,K+などとの錯体は,全体として陽イオンとしての性質を帯びる。従って,生体膜や人工リン脂質膜にバリノマイシンを与えることにより,膜内外のK+などの電気化学的ポテンシャル差に従ってK+などを移動させる。
また,バリノマイシンの特徴は,極めて高いK+あるいはRb+の選択性であり,Na+に対し17,000倍以上の選択性を示す。これは陽イオンを包みこむ分子中の空洞が直径2.7〜2.9Åであって,イオン径(γ)1.33ÅのK+や1.45ÅのRb+とは安定な錯体を作りうるが,少し大きなCs(γ=1.69Å)や,小さなNa+(γ=0.95Å)やLi(γ=0.60Å)とは安定な錯体を作りえないことに起因する。
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