Japanese
English
特集 神経回路網と脳機能
総説
学習行動の脳内メカニズム—下側頭回への神経生理学的アプローチ
An approach to the inferotemporal cortex
三上 章允
1
Akichika Mikami
1
1京都大学霊長類研究所神経生理部門
pp.185-192
発行日 1977年6月15日
Published Date 1977/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425903186
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
心理学では,「生活体に練習または経験が与えられたとき,それによって生活体の行動に比較的永続的な変化が起る」ことを『学習』と呼ぶ31)。神経生理学の側から『学習』の問題に取り組もうとするときの一つの立場は,この行動の変化をもたらす脳内の変化をとらえようとする立場である。この場合,概念・推理・判断といった複雑な過程を含む高次の学習をいきなり取り上げるよりも,神経回路網のすでに明らかにされている単純な学習系を対象とする方がより有利であると考えるのが一般的である。それは,高次の学習に関与する神経回路網の研究が遅れていることともに,個々の神経細胞レベルでの変化を問題とする限りは,高次の学習に伴って引き起される変化と同様の変化を,単純な学習系においても見出すことができるであろうという考え方があるからである。したがって,このような問題意識をもつ研究者達は,反射や古典的条件づけなどにおける神経回路網の可塑性の問題を研究対象として選んでいる。
ところで,複雑な学習系における神経細胞レベルでの変化が,より単純な学習系ですでに見られるようなタイプの変化によって構成されているとすると,高次の学習の特徴は何であろうかということになる。それは,個々の神経細胞のレベルで起る変化自体よりも,むしろ,その結果脳内にどのような神経回路網がつくられるかが重要であるということであろうと考えられる。
Copyright © 1977, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.