Japanese
English
解説
生細胞の凍結—低温生物学の一課題
Freezing of living cells: A subject in cryobiology
根井 外喜男
1
Tokio Nei
1
1北海道大学低温科学研究所医学部門
pp.239-246
発行日 1975年6月15日
Published Date 1975/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425903059
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Ⅰ.低温生物学とは
Cryobiologyという新しい学問分野がある。われわれは,これを日本語で低温生物学と訳した。cryoの語原は,元来ギリシャ語のkryosに発し,coldとかfrostという意味であるといわれる。古くはlow temperature biologyといういい方で使われていたが(とくに英国系において),この頃といつても,ここ10年ほど前から,cryobiologyという言葉がすつかり定着してしまつた。これに対応する低温生物学という日本語も,いまではだいぶ普及してきたとは思うが,その詳しい内容について,まだ一般の人が十分な理解をもつまでには至らない。筆者自身,機会あるごとに,低温生物学に関する研究の歴史や現状について,できるだけ多くの人に紹介してきたつもりではあるが,なんといつても若い学問分野であるから,関心を示す人はまだそう多くはない。
低温生物学でいう生物学とは,狭い意味の動物学や植物学だけにとどまらない。広く生きとし生けるものすべて,さらに,それらから取り出されたもの,生命をもたない物質レベルのものまで,研究の対象としてとりあげられるものと理解していただきたい。したがつて,低温生物学は,医学,薬学をはじめ,農,林,水,畜産領域から工学の一部をも含むもので,いわゆる学際的というか,広い範囲にわたる境界領域を占めるところの,しかも比較的近年発達した新しい学問分野なのである。
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