巻頭言
研究の独創性
山田 博
1
1京都府立医科大学
pp.157
発行日 1973年8月15日
Published Date 1973/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902958
- 有料閲覧
- 文献概要
日本における医学の研究は,昔から独創的なものが少ないといわれてきた。私は昭和11年に京都府立医大を卒業したが,そのころはいま以上に独創的なものが少なかつた。それは,指導者の多くが,外国の研究から得た知識や技術に多くを頼つていたからであつた。これに強い反発を感じた私は,逆に外国から見学にこさせるような独創的な研究をやつてみたいと,心に誓つた。そして,昭和13年9月に解剖学の講師になつたとき,私は材料力学の解剖学への導入を考えた。人体建築学である人体解剖学において,人体構成材料の強さも知らずに,その設計を理解できるはずはないと考えたからである。顕微鏡を最大の武器としてきた解剖学においては,まさにユニークなものであつた。こうして,私の生物強弱学の研究ははじまつた。
研究は硬組織からはじまつて軟組織へ移り,昭和36年ごろには,からだ中の大部分の器官組織の強度がわかつてきた。ことに,各種器官組織の強度の年齢的変化の成績は,世界の誰もが二度と得難いような貴重なものとして,私の前に展開してきた。そこで,私は,これを一冊の本にして外国から出版し,広く世界中に知らせようと考えた。昭和38年に欧米に出張したとき,この方面に関心をもつ,とくに工学畑の人々が,私に出版を強く勧めた。そのころ,工学の分野では,生物,とくに人体を対象とする研究が,しだいに盛んになる傾向にあつたからである。
Copyright © 1973, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.