巻頭言
戦後20年,橋田邦彦先生を偲ぶ
高木 貞敬
1
1群馬大学
pp.1
発行日 1966年2月15日
Published Date 1966/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902661
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先生が逝かれてから早くも20年の歳月が経過した。敗戦直後の荒廃と虚脱状態から立上り,建設の努力を始めてみて戦争による10年間の空白の大きさに驚いたのも既に二昔まえのこととなつた。昨年国際生理学会が東京で開催せられ,多くの日本の学者が立派な仕事を発表し,日本の生理学会も戦争中の空白を完全にとり戻したことを示した。地下の先生はどんなにか喜んでいられることであろう。
戦後20年,「もはや戦後ではない」という言葉を耳にする。しかしすべての面において果してそうであろうか?たしかに生理学,特に神経生理学の領域では日本人の研究の発展は戦前の比ではない。しかし反面生理学の研究に従事する人々の「ものの考え方」がずいぶん機械的になり平板になつたように思う。これは時代のせいとばかりいえないと思う。過去20年間戦争の空白を取り戻すために研究業績をあげることに追われたことは仕方ないとしても,一応世界の水準に達し,国際生理学会をもやり終えた現在,日本の生理学会は戦後第二の段階に入つたのではあるまいか。「よい仕事をしなければならない」という考え方は当然の事ながら,「よい仕事をしさえすれば十分」という考え方に堕してしまい,大きい流れに乗つてただ泳ぎ廻るだけで,根本的な研究する「人」への反省が忘れられ,またはおろそかにされすぎていないであろうか?
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