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実験講座
組織特異的および時期特異的変異導入マウス―脳機能の解析に向けての現状と展望
Tissue Specific and Inducible Mutagenesis in Mice: Now and Future in Brain Sciences
糸原 重美
1
Shigeyoshi Itohara
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チーム
pp.59-64
発行日 1999年2月15日
Published Date 1999/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425901673
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トランスジェニックマウスの開発に引き続き,マウス胚性幹(ES)細胞の樹立と,ES細胞での相同性遺伝子組み換えに基づいたノックアウトマウスの開発は,個体レベルにおける個々の遺伝子の機能を解析する手段を提供し,動物の発生機構や免疫系および中枢神経系が営む高次な情報処理機構の理解を飛躍的に高めるきっかけとなった。これらの手法はいずれも生殖細胞の段階から遺伝子変異を保持するものであり,いくつかの問題点が指摘されている。
(1)たとえば,X遺伝子の成体脳での機能を解析したいと考えてX遺伝子ノックアウトマウスを作製しても,それが胎児期でも重要な役割を担っているせいで,そのノックアウトマウスは胎性致死となってしまう場合である。つまり,成長の過程で最初に現われた表現型が以降の表現型を隠す結果となってしまう。(2)逆に,認められた表現型の理由を,その時点での遺伝子機能に求めるべきか発達過程の異常の蓄積に求めるべきかの客観的基準を得ることは,しばしば困難である。(3)慢性的にX遺伝子の機能に欠損もしくは異常が生じているので,生体の恒常性を保つための代償機構が働いている可能性がある。(4)X遺伝子の細胞種ごと,あるいは限定された組織領域ごとでの機能を特定することは容易ではない。
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