特集 器官―その新しい視点
1.消化器
胃
長町 幸雄
1
Yukio Nagamachi
1
1群馬大学医学部第一外科
pp.342-346
発行日 1996年10月15日
Published Date 1996/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425901106
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ポイント 急性胃粘膜病変にみるデリケートな感応臓器
胃は種々の疾患の好発部位であり,胃炎,胃潰瘍その他良性・悪性腫瘍などの発生頻度が高い。ヒト悪性腫瘍中,最も多い胃癌の発生成因も不明であるが,良性疾患の代表格である胃潰瘍の成因にもまだ謎が多い。胃の生理的な機能維持のために他臓器にはみられない豊富な血流の支配があり,神経性,体液性および内分泌性調節が関与している。胃はさまざまな調節機構に依存しており,あらゆるストレス刺激に感応するデリケートで消化とは程遠い「別の顔」を持っている。ストレス社会となって増加している“stress-induced ulcer”(広義のAGML:急性胃粘膜病変)は感応臓器としての胃に発生した警告現象と考えることができる好例であろう。警報器としての胃のbehaviorにスポットライトを当て,最新の知識を加え,AGMLを題材にして“胃の横観病態論”を紹介してみたい。
AGMLは十数年前までは保存的にも外科的にも,治療に難渋した病態であり,今日ではヒスタミンH2ブロッカー(H2ブロッカー)やプロトンポンプインヒビター(PPI)などの投与や,内視鏡下の各種止血法で完治可能な疾患となっている。発生成因には不明な点が多いが,臨床的には対応しやすい疾患となったAGMLの正体は何であったのか。この謎解きと取り組んで遍歴してきた筆者の研究成果と最近の話題を取り上げる。“胃”は摩訶不思議な貯留嚢!
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