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本稿では,筆者が専門としているマウスの音声コミュニケーションにみられる個体差について論じていく。その際,動物の鳴き声の研究で有名な鳥類との比較をすることで,動物の鳴き声の個体差形成機構を概観していく。そもそも鳴き声は,動物種ごとに多様である。例えば霊長類では,天敵の種類に応じてベルベットモンキーが警戒音声を使い分けていることを報告した有名な研究があり,音声を高度に用いているように感じられる。しかし,そのような霊長類においても,ヒト以外では発声学習が明確には確認できず,情動依存的に音声が発せられていると考えられている1)。つまり,神経支配による随意的な発声操作は,動物種全体を眺めれば,非常に難しい行動なのである。一方,鳴禽類は,この発声学習を行う鳥類として非常に有名である。学習がなされる発声としては,雄の求愛発声がたいへん有名なわけだが,マウスの超音波発声にも求愛発声に類するものが知られている。個性という観点からの生物学的研究は,いまだ非常に少ないと言わざるを得ないが,求愛もしくは雌雄間のかけひき・パートナー選択を進化的視点から考えれば,個性・個体差というものが,生物学にとって本質的問題であると言わざるを得ないことがわかる(後述する)。そこで本稿では,動物の鳴き声のなかでも,この求愛発声の個体差について解説する。
本論に入る前に,マウスの超音波発声についての簡単な説明をここでしておきたい。マウスの超音波発声としては主に2種類が有名で2),1つは仔マウスが母や巣から隔離された際に発するストレスコール(図D),そしてもう1つが,成体雄が雌に発する求愛発声である(図A)。齧歯類の超音波発声はultrasonic vocalizations,略してUSVsと呼ばれ,マウス以外にもラットや他の齧歯類で広くみられる3,4)。単一の周波数ピークを持つトーン状の音声シグナルで,マウスでは50kHzから80kHz程度の間に主音がみられる。
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