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いかにして体の座標軸が定まるかは,発生生物学の永年の課題の一つであった。物質レベルは,座標軸を表象して組織のふるまいを誘導する“モルフォゲン”の濃度勾配が安定的に形成されるのはなぜか,という問いに置き換えられる。モルフォゲンを特異的に産生する細胞群を“オーガナイザー”と呼ぶ。ところが,タンパク質レベルにおいて,オーガナイザーから産生されるモルフォゲンのふるまいは初期胚ではほとんど可視化できておらず,オーガナイザー領域におけるモルフォゲン遺伝子発現と,その下流の遺伝子発現の様子から間接的に推測するほかはなかった。今回,Shhタンパク質の濃度勾配をノックアウトマウスで可視化すると共に,その形成機構を細胞生物学的に解析することにより,新しい2層性の勾配形成システムの仮説を立てることができた。
ソニック・ヘッジホッグ(Shh)は最も著名なモルフォゲンの一つである。神経管では,腹側の脊索ならびに神経管の底板から産生され,背側に向けて濃度勾配を形成する。実際,Shhシグナルが減弱する変異マウスでは神経管が背側化する1)。異なったShh濃度の培地で培養した神経前駆細胞は,それぞれの濃度に従い,異なった背腹軸分化マーカーを発現する2)。すなわち,組織はShh濃度の減衰の様子から自らの座標を知り,発生運命を決定すると考えられる。体肢芽においては,その後部にShhのmRNAを特異的に発現するオーガナイザー領域があり,極性化活性域(ZPA)と呼ばれている(図1)。体肢芽の前部に異所的にShhを発現させたり,上流の遺伝子変異によってそれを異所的に発現したりすると,手指の発生に擾乱が生じる3,4)。Shhシグナリングの下流因子であるPtch1やGli1は体肢芽の後部に強く発現し,その抑制因子のGli3はこれと拮抗する勾配を示す。
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