Japanese
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仮説と戦略
感染症数理モデルとCOVID-19
Mathematical models for infectious diseases and COVID-19
稲葉 寿
1
Inaba Hisashi
1
1東京大学大学院数理科学研究科
キーワード:
COVID-19
,
感染症数理モデル
,
集団免疫
,
基本再生産数
,
検査と隔離
Keyword:
COVID-19
,
感染症数理モデル
,
集団免疫
,
基本再生産数
,
検査と隔離
pp.361-364
発行日 2021年8月15日
Published Date 2021/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425201385
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今回の新型コロナ流行(COVID-19)は,感染の規模とスピードからみれば,100年前のスペイン・インフルエンザに比肩すべきパンデミックであろうが,100年前との大きな違いは科学的な対抗策の進歩である。ワクチン開発や治療法のようなハード面での劇的な進歩はいうまでもないが,マスクや手洗い,行動制限,社会的距離拡大,ロックダウンなどの非薬剤的流行抑制政策は,一見すると非常に原始的で100年前と変わらないようにみえるが,そうした政策の効果を測定,検証することが,経済的影響まで含めて数理・データ分析によって可能となってきたことは,実は大きな進歩だったといえる。
スペイン・インフルエンザ流行当時においては,“感染”による流行という事実がわかっていても,流行ダイナミクスを定量的に記述する数学的手段がなかったため,行動変容,防御処置によって変化する流行の行方を見通すことができなかった。そうした状況を打開する革新的アイディアが感染症数理モデルであった。ここで注目すべきは,“数理モデル”という言葉で意味しているものは,静態的・記述統計的数理ではなく,“動的システム”(微分・差分方程式)による現象のモデル化にほかならないということである。以下では,今回のCOVID-19において注目された2つの論点,すなわち集団免疫論の意義と検査・隔離政策の有効性を,最も単純な常微分方程式によるSIRモデルを通じて論じてみたい。ただし,数学的詳細については拙著1,2)を参照していただきたい。
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