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ヒトの消化管には100兆を超える細菌が存在し,その数は人体を構成する細胞数を凌駕する。更に,2万5,000を超えるヒトの遺伝子の100倍になる遺伝子数を腸内細菌叢のmicrobiomeは含むと言われている1)。近年のメタゲノム解析の技術発展と無菌動物実験の普及に伴って,腸内細菌叢の構成や役割の解明が進んできた。宿主は腸内細菌叢から様々な恩恵を受けており,腸内細菌叢が乱れdysbiosisの状態になると疾患を引き起こすと考えられるようになった。肥満,糖尿病,炎症性腸疾患,大腸癌,肝癌,関節リウマチ,多発性硬化症,自閉症スペクトラム障害といった多彩な疾患が,腸内細菌叢のdysbiosisと関連があると報告されている2)。このように,腸内細菌叢とホストであるヒトは互恵関係のなかで共生してきたと言える。
細菌と免疫系の関連ということで言えば,細菌と宿主(ヒト)の細胞を結ぶ最も重要な分子はToll様受容体(Toll-like receptor;TLR)であろう。TLR1から10までの10種類のTLRは,それぞれ微生物の種々の構造を認識してシグナルを細胞内に伝達する。TLR2は細菌細胞壁中のペプチドグリカンを認識し,TLR4は細胞壁中のリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS),TLR5では鞭毛の構成物質であるフラジェリン,TLR9は細菌の非メチル化オリゴDNAであるCpGオリゴヌクレオチドを認識する。白血球上のこれらのTLRは,病原細菌の侵入をそれぞれの構造物を認識することで感知し,細胞内下流の転写因子NFκBの活性化を介して多種の炎症性サイトカインを発現する。炎症が起こるところに獲得免疫が誘導され,細菌への防御がなされるわけである。TLRは広く白血球以外の細胞にも発現が見つかっており,病原菌に対する防御のみならず,粘膜上皮のバリアやリンパ組織の成長など,普段からも重要な役割を担っていることが想定されている。平時に100兆を超す数で存在する腸内細菌叢は,その代謝産物により宿主の恒常性維持に一役買っており,TLRからのシグナルは細菌叢と宿主の細胞をつなぐ一端を担っていると考えられている3)。
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