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脳の組織切片を観察したことがある人ならば誰でも,整然と配置された神経細胞の美しいパターンに心を奪われた経験があるに違いない。中枢神経系はニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトといった様々な細胞から構成されているが,これらは共通の神経系前駆細胞より産生される。大脳新皮質において神経系前駆細胞は,発生時期依存的にその性質を変化させることが知られている。例えば,マウス大脳新皮質においては胎生11日目ぐらいまでは盛んに対称分裂を行って神経系前駆細胞の数を増やし,その後は非対称分裂によりニューロン,アストロサイトを順次生み出すようになる。また,神経系前駆細胞はニューロン分化期の間でも時期によって形態や機能の異なるニューロンを生み出す。哺乳類の大脳新皮質では,生み出されたニューロンは先に生まれたニューロンの間隙を縫って脳表層に到達し配置されるため,早い時期に生まれたニューロンは下層に,遅い時期に生まれたニューロンは上層に定着し,いわゆる“inside-out”の6層構造が形成される。適切な数の分化細胞を生み出し,適切な位置に配置され,それらが複雑に相互作用しネットワークを形成することで,脳は運動や感覚,言語,認知,思考といった高次の機能をつかさどっているのである。
さて,生物はどのようにして多すぎず,少なすぎない“適切な数”の分化細胞を生み出しているのであろうか? 近年の研究で,分化したニューロンが未分化状態を維持した神経系前駆細胞にフィードバック(あるいはフィードフォワード)シグナルを送ることで,神経系前駆細胞のその後の分化運命を制御しているという知見が得られ始めている。本稿では,下層ニューロンから上層ニューロンへの分化運命転換(第Ⅱ項),ニューロンからアストロサイトへの分化運命転換(第Ⅲ項)におけるニューロンからのシグナル機構について,近年の文献を中心に概説したい。
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