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■セントラルドグマと生命
1953年のWatson・CrickらのDNAの二重らせん構造の発見を契機とした分子生物学に関連する技術の急速な進展により,生命の持つ様々な遺伝子の配列情報,タンパク質の構造情報が明らかにされ,また,それら遺伝子やタンパク質を手軽に扱うことが可能となってきている。Schrödingerが“What Is Life?”と記した著書を発表した1944年とは大きく異なり,現在では,われわれは生命とは何かを,分子レベル,原子レベルである程度記述すること,また,そうした記述を基に,生命をある程度操作することもできるようになった。しかしながら,生命は依然複雑であり,その構成要素およびそれらが織りなすネットワーク構造を完全に記述し,生命の挙動の予測や操作に結び付けるためには更なる技術革新と更なる知見を必要としている。
DNAの二重らせん構造の解明が分子生物学の発展の契機となった背景には,DNAという分子に生命を記述し,その挙動を予測,操作するための鍵となる情報が刻み込まれていたためであり,その情報がRNAやタンパク質といった形で機能分子として具現化される過程であるセントラルドグマに記述される過程は,生命の根幹をなす中心的過程であると言える。Venterらは単独で培養可能な生物の中では最小のゲノムを持つMycoplasma genitaliumが持つ482の遺伝子のうち,382の遺伝子が生育に必須であることを明らかにしている1)。彼らの定義に従うと,これら382の遺伝子のうち,タンパク質の生合成に関与する遺伝子は95種類あり,細胞が自律的に生育するための遺伝子の約1/4はタンパク質の生合成のために存在すると言え,生命が生命たりうるためには,セントラルドグマに記述される過程の中でもタンパク質を生産する過程に多大なリソースを割かなければならないことを示唆している(図A)。
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