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アラキドン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,ドコサヘキサ塩酸(DHA)などの不飽和脂肪酸は,細胞膜の構成成分の一つであるホスファチジルコリンがホスホリパーゼA2によってβ(2)位で加水分解され,リゾホスファチジン酸とともに産生される1,2)。様々な細胞内情報伝達系において重要な役割を担うタンパク質リン酸化酵素C(PKC)は,conventional PKC(PKC-α,-βⅠ,-βⅡ,-γ),novel PKC(PKC-δ,-ε,-η,-θ,and-μ),atypical PKC(PKC-λ/ι for mouse/human,-ζ and-ν)の三つに分類され,不飽和脂肪酸はジアシルグリセロール/カルシウム非依存性にnovel PKCを活性化する1,2)。また,不飽和脂肪酸は活性化されたconventional PKCのC1(cysteine-rich)ドメインに結合することにより,conventional PKCを長時間活性化する働きがある1,2)。興味あることに,不飽和脂肪酸は学習・記憶の細胞モデルとされるシナプス伝達長期増強現象(LTP, long-term potentiation)発現経路において逆行性メッセンジャー(シナプス後細胞で産生され,シナプス前終末に取り込まれて神経伝達物質の放出を刺激する)として働くことが指摘されている3,4)。
アセチルコリン(ACh)受容体は,イオンチャネル型のニコチン性ACh受容体とGタンパク質共役型のムスカリン性ACh受容体に分類されている。ニコチン性ACh受容体の中で,脳ではα7 ACh受容体とα4β2 ACh受容体が豊富に発現しており,シナプス前終末に局在するα7 ACh受容体は高いCa2+透過性を示し,グルタミン酸を含めた興奮性神経伝達物質の放出に関与することが知られている。シナプス前終末α7 ACh受容体はN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体依存性LTP発現経路の一要因であることが示唆されている5)。不飽和脂肪酸はPKCとの相互作用によりニコチン性ACh受容体反応を増強し6-11),シナプス前終末ニコチン性ACh受容体を標的とすることによりLTP発現と共通のメカニズムでシナプス伝達を促進する12-15)。これらの事実は,不飽和脂肪酸が認知機能改善剤として使用できる可能性を示唆している。しかし,最大の問題点はいくら不飽和脂肪酸を経口摂取あるいは末梢注入しても,脳に到達する前に分解されるか脂肪細胞・筋細胞に吸着されてほとんど脳に移行しないことである。
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