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ある蛋白質の機能をin vivoにおいて解析するためのツールとして,homologous recombinationを用いたノックアウトマウスの作製は極めて有力な手段であり,これまでに多くのノックアウトマウスが作製,解析され,生体における蛋白質の機能解明に貢献してきた。しかし,従来のノックアウトマウスではすべての組織,細胞に同一の変異が導入されるために,その有用性には限界が生じることになる。すなわち,(1)その蛋白質の生命現象への関与が大きいほど胎生致死となり,胎生後期以降の表現形の解析が困難となる可能性が高く,(2)その表現形を解析する際にそれがどの組織,細胞に由来する異常現象であるのか判定が困難となることがあるからである。このような欠点を克服するために開発された技術がコンディショナルノックアウトマウスであり,“コンディショナル”とは特定の遺伝子を任意の場所(組織,細胞),任意の時間(胎生期,生後週齢)にノックアウトする,という意味合いである。コンディショナルノックアウトマウスでは目的の組織,細胞以外の部位における遺伝子型は野生型であるから,極めて重要な機能を有する蛋白質をノックアウトしても胎生致死となる可能性は低く,蛋白質の機能解析が可能となる1,2)。
コンディショナルノックアウトマウスの作製に今日最も広く用いられているのはCre-loxPシステムである3,4)。CreはバクテリオファージP1由来のDNA recombinaseで,同じくバクテリオファージ由来のloxPと呼ばれる34bpからなる塩基配列を特異的に認識し,二つのloxP配列に挟まれたDNAを切り出す働きを有する。この34bpからなるloxP配列は脊椎動物には通常は存在しないものと推定され,マウスのゲノムDNAがCre recombinaseによって認識,切断されることはない。このシステムを用いたノックアウトマウスの作製には2系統のマウスが必要となる(図1)。一つはhomologous recombinationにより目的遺伝子(あるいはその一部)の両端にloxP配列を導入したマウス(floxed mouse)であり,もう一つは特定の組織,細胞で発現をコントロールするプロモーターを上流にもつCre recombinase遺伝子を導入したマウス(Cre transgenic mouse)である。コンディショナルノックアウトマウスの組織特異性はこのプロモーターの特性に依存することになる。そして,これら2系統のマウスを掛け合わせることによってコンディショナルノックアウトマウスが誕生する。このマウスでは組織特異的なプロモーターによりCre recombinaseが発現し,その結果その組織でのみloxP配列に挟まれた目的遺伝子が切り出されることになるのである。
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