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プレクチンは分子量500kDaのプラキンファミリーに属するクロスリンカータンパク質で,上皮,筋,グリアなどを含むさまざまな組織で発現している1)。このタンパク質の分子構造はN末にアクチン結合ドメイン,その後ろにプラキンドメイン,中央にはロッドドメイン,C末に中間径フィラメント結合ドメインを含む六つのプレクチンリピートドメインがみられる2)。プレクチンのアミノ酸配列の解析とロータリーシャドウによる精製されたプレクチン分子の電子顕微鏡観察に基づき,生体内のプレクチン分子はパラレルな二量体がさらにアンチパラレルに結合してできた四量体であると考えられている3,4)。この説はプレクチン分子がその両端で中間径フィラメントに結合することからも支持されている5)。このタンパク質をコードするPLEC1遺伝子は8q24に位置し,33のエクソンからなる6,7)。マウスプレクチンの遺伝子解析によれば16の遺伝子バリアントが存在し,これらはいずれも5'端におけるスプライスバリアントであり,組織によってそのバリアントの種類と発現量が異なる8,9)。このことからアイソフォームによりプレクチンの異なる機能が示唆されている。ちなみに筆者らはラットでマウスとは異なるエクソン1のバリアントを見出した。
最初のプレクチン遺伝子変異は筋ジストロフィーを伴う単純型先天性表皮水疱症(epidermal bullosa simplex-muscular dystrophy;EBS-MD)の患者で見出された10-12)。その変異の多くはエクソン32,33内にフレームシフトを起こす欠損や挿入であり,その結果プレマチュアストップコドンを生じプレクチンタンパク質の発現がみられない。しかしその他の遺伝子変異もみられ,変異のタイプ(プレマチュアストップコドンvsインフレーム挿入/欠損)により症状の重症度や筋ジストロフィーの発症時期が異なるようだ。具体的な症状としては水疱が指や足にみられ,この部分で表皮が基底層のケラチノサイト内のちょうどヘミデスモゾームの表層よりではく離している。プレクチンが基底層ケラチノサイトのヘミデスモゾームにおいてケラチン中間径フィラメントとインテグリンβ4とをクロスリンクする役割をもっているため13),プレクチンが欠損することによりこの部分が脆弱になりはく離することに矛盾はない。一方,併発する筋ジストロフィーは10歳前後に発症し,進行性の筋力低下を特徴とする。骨格筋において,プレクチン分子は中間径フィラメントネットワークと筋原線維のZ線部分をクロスリンクし全体として並列する筋原線維を束ねている14)。このことからプレクチンは並列する筋原線維の同調収縮を保障するクロスリンカータンパク質と考えられる。したがって,プレクチン欠損により筋原線維がうまく同調収縮できないために筋線維が崩壊し,進行性の筋力低下に陥ると推測される。筋原線維のほかにもプレクチン分子は筋形質膜やミトコンドリアにリンクしているので15,16),このリンクの欠損も筋ジストロフィー発症に関係していると考えられている。
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