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1955年,江橋節郎らは,試験管中にアクチン,ミオシン,ATPを共存させると収縮は再現できるが,弛緩は再現できないことに注目して,弛緩因子を発見した。それは筋小胞体由来の膜画分であった。この膜画分はATP加水分解に駆動されたCa2+取り込み活性(Ca2+-ATPase)を持つ。江橋らはCa2+が筋小胞体に取り込まれて弛緩が起きるのであれば,筋小胞体からCa2+が放出されるメカニズムと,収縮蛋白質フィラメント上に結合したCa2+の受容体があるに違いない,と確信した。こうして発見されたのが,Ca2+放出チャネルとトロポニン(Tn)・トロポミオシン(Tm)である。収縮のカルシウム説は,筋小胞体へのCa2+の貯蔵,興奮による筋小胞体からの放出チャネルを通ってのCa2+放出,Tn/TmによるCa2+受容と収縮の開始,弛緩時の筋小胞体へのCa2+取り込み,の要素からなる。これは細胞内でCa2+が介在する信号伝達のメカニズムの最初の発見であって,その生物学における一般的な意義は極めて大きい。それまではCa2+の細胞内での役割は全く理解されていなかった1)。
江橋らはカルシウム説のひとつの重要な結論として,筋肉の細いフィラメント(以下ではアクチンフィラメント複合体と呼ぶ)の分子模型(図1下図)を提案した。アクチン重合体上に周期的にTmとTnが結合している。Ca2+はTnに結合し,その信号はTmを経てアクチンフィラメント全体に伝搬し,ミオシンとの滑り運動が始まって張力が発生する。アクチンフィラメント複合体は収縮力を発生するモーターの一部であると同時にスイッチでもある。分子配置の美しい周期性はTn/Tm/アクチン=1:1:7という分子の存在比に対応する。しかし,アクチンフィラメント複合体によるカルシウム調節のメカニズムを理解するには分子模型では不十分であって,原子模型すなわち原子座標の精度の構造を解明する必要がある。
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