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全前脳症(holoprosencephaly)は顔面正中部の奇形(眼窩間距離の狭小化,正中唇裂・口蓋裂など),嗅球・嗅索の欠損,単脳室形態の終脳などの特徴を持つ, 一連の中枢神経系奇形の総称である。特異な顔貌から内在する中枢神経系の奇形を予測できるという意味で,DeMyerらが“The face predicts the brain”と述べたことはよく知られている1)。しかし顔貌と中枢神経の奇形が一対一対応するのではなく,むしろ最重症の単眼症からほぼ正常の顔貌の例まで,顔貌のバリエーションが極端に広いことに特徴がある。近年の分子レベルの解析により,TGIF,SIX3,ZICなど種々の責任遺伝子が報告されたが2),その中でもSonic hedgehog(Shh)の変異がもっとも有名かつ重要である3,4)。Shhは種々の器官発生にかかわる代表的モルフォゲン分子で,特に中枢神経系の正中腹側化シグナルとしての重要性が高い。例えば発生ごく初期に単一である眼形成領域(eye field)が双眼パターンに分かれるのは,頭部正中腹側の中胚葉(prechordal plate)由来のShhが,発生過程でeye fieldを正中で抑制するためと考えられている5)。 事実Shhノックアウトマウスは単眼症,単一脳胞という表現系を呈し6),重症の全前脳症の動物モデルといえる。しかし顔面形態の表現型のバリエーションには乏しい点が,臨床例での病態と大きく異なる点である。こうした表現型の多彩さは何に由来するのだろうか。
筆者らはShhの機能欠失の条件と表現型のバリエーションとの関連を探る目的で,マウス全胚培養系を用いた一連の解析を行った7-10)。全胚培養系とは,齧歯類器官形成期の胚を個体のままin vitroで数日間培養するというユニークな系である11,12)。この培地にShhをはじめとするhedgehogシグナルの特異的な阻害剤cyclopamineもしくはjervineを添加することにより,種々の条件の全前脳症モデル胚の作製が可能である。特に阻害剤の投与時期を変えるだけで,時期特異的ないわゆるコンディショナルノックアウト実験が極めて簡便に行えることが,この実験系の大きな強みである。 実際,胎生8.0日前後(体節数0-1)からの阻害剤添加では,胚発生が大きく障害され頭部はほとんど形成されないのに対し,体節数4-5からでは若干異常は弱まり,おそらく単脳胞状態の頭部と回旋異常などの体幹部発生異常が観察された。さらに胎生8.5日(体節数8-9以上)からの阻害剤添加では発生異常はさらに軽微になり,とくに顔面では顔面横径・鼻殻間距離の縮小および鼻殻角度の狭小化という,いわゆる軽症・中等症の全前脳症に類似の表現型を認めた7)。
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