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アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)は,アセチルCoAと炭酸水素塩からマロニルCoAを合成する酵素で,哺乳類にはACC-1およびACC-2の2種類のサブタイプが存在することが報告されている1)。ACC-1は多くの組織で広く発現しているが,特に肝臓や脂肪組織など脂肪合成を担う臓器において高発現であることが知られている。ACC-1はこれらの組織の細胞質において脂肪酸合成酵素(FAS)にマロニルCoAを供給することにより,脂肪酸の合成および伸長に関与すると考えられている2)。一方,ACC-2は骨格筋や肝臓などエネルギー産生を担う臓器で高発現であり,疎水性に富むアミノ末端20残基を介して,ミトコンドリア表面に局在していると考えられている3)。マロニルCoAは,ACC-2と同じくミトコンドリア表面に存在するカルニチン・パルミトイル基転移酵素1(CPT-1)の強力な内因性阻害因子であることから4,5),ACC-2は脂肪酸のミトコンドリア内への輸送を阻害することによって,間接的に脂肪酸のβ酸化(FAO)を負に制御すると考えられているが,詳細は不明である(図1)。
最近Wakilらのグループによって,全身性のAcc2ノックアウトマウスは,野生型マウスと比較して骨格筋におけるマロニルCoAレベルの低下およびFAOの上昇が認められ,その結果として体重減少,血中グルコースおよび脂肪酸値の低下,高脂肪食誘発肥満への抵抗性を示すことが報告された6,7)。興味深いことに,ACC-1およびACC-2を同程度に発現する肝臓では,Acc2ノックアウトによるマロニルCoAレベルの低下は認められないにもかかわらず,絶食時血中ケトン体値が上昇していることから,肝FAOが亢進していると考えられる。この結果は,肝臓においてACC-1により産生されるマロニルCoAが,CPT-1阻害を介したFAOの抑制には利用されないことを示唆している。一方,全身性Acc1ノックアウトマウスは胎生初期に致死であることが報告されており8),ACC-2由来のマロニルCoAは,マウスの発生初期において脂肪酸合成経路を代償しないと考えられる。以上の推論をもとに,Wakilらは,ACC-1およびACC-2により産生されたマロニルCoAは,細胞質とミトコンドリア外膜上との間に存在する区画により厳密に分画されており,両者が互いを補完することはできないという仮説を提唱している(図1)。
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